過保護な医者に心ごと救われて 〜夜を彷徨った私の鼓動が、あなたで満ちていく〜
雪乃のグラスは、空になればすぐに満たされた。
「飲みやすいやつにしといたからさ」
高道のその言葉とは裏腹に、アルコール度数は高く、甘くごまかされた液体が喉を焼いた。

「ほら、もう一口。いい子だね、ナナちゃんは」

断れば空気が変わる。
拒めば面倒が起きる。
そういう世界だと、体が覚えていた。

「……ありがとうございます」
無理に笑って、グラスを口元へ運ぶ。

次第に指先に力が入らなくなり、頬がほんのりと火照っていくのがわかる。
酔いが、じわじわと血管の中をめぐっていた。

それでも、本命のキャストが出勤すれば、自分は席を外せる——そう思っていた。
だが。

「お、来た来た。ナナちゃん、動かないでね? まだ話したいからさ」

高道はお気に入りのキャストを別の席に呼び寄せた。
雪乃をそのまま傍らに置いたまま、二人の女を同時に楽しむような視線を投げる。

雪乃はじわりと滲む視界の中で、自分の立ち位置を悟った。
飽きるまでは飾りのように置かれるだけ。

グラスの縁が滑って、手元で少し揺れた。
心臓が、妙に速く打ち始める。
単なる酔いじゃない——そう直感する。

息がうまく吸えず、胸の奥がじくじくと痛む。
心拍がリズムを崩し、波打つように重くなる。

(まずい……)

笑顔の仮面を保ったまま、足の力が抜けていく感覚。
呼吸を整えようと意識を向けるが、逆に呼吸が浅く、速くなる。

高道は気づいていない。
というより、気づく気がない。

「ナナちゃん、顔赤いよ? かわいいねぇ」

軽く頬を触れてくる指先に、反射的に身を引いた。
そのわずかな拒絶すらも、酔いのせいだと笑われる。

体の内側で、心臓が小さく悲鳴を上げていた。
これはもう——誤魔化せる状態じゃない。
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