18年に一度のプロポーズ
プロローグ 死神との契約
一人で飾り付けたケーキのロウソクに、息を吹きかける。ふっと灯りが消えて、部屋が暗くなった。
六月十三日の今日、私は十八歳の誕生日を迎えた。けれど、それを祝ってくれる友達や親族は誰もいない。
常に付きまとう孤独も、受験の重圧も、もう耐えられそうになかった。
考えれば考えるほど、ただ虚しさが募るばかりで、私は勢いよく目の前のフォークを殴りとる。
自暴自棄になって、一人用のショートケーキに力いっぱいフォークを突き刺した。その時だった。
骨がむき出しになった顔。黒い装束。巨大な鎌。それらを携えた幽霊のような物体が、突如私の目の前に現れた。
驚いた私は、両手を床に着き、へたれこむ。上手く呼吸が出来なくて、その場で口をぱくぱくとさせる。肺が痛い。
「こんばんは。今晩、あなたとの契約交渉に伺いました死神です」
言いながら、彼はそっと人差し指をこちらに向ける。
すると、過呼吸気味だった私の体は力が抜けて軽くなり、自然体へと戻っていった。それに伴い、私は口を開く。
「契約……?」
「そうです。優羽さん、今のあなたはもう生きることに価値を見出していません。死に方が分からないだけで、本当はずっと消えてしまいたいと思っている。そうでしょう?」
心の内を見抜かれたようで、ドキッと心臓が跳ねる。
それもまた見透かされたのか、死神が再度言葉を継ぐ。
「そんなに怯えなくて大丈夫ですよ。これはあくまで交渉ですから」
私はそれに、こくりと頷く。
死神は無機質な顔で、にこりと微笑み返して、
「それでは本題に入りましょう」
と告げた。
「優羽さんあなたの寿命、残り五日を残して私に預けるというのはどうですかね。もちろんタダでとは言いません。変わりに、望みをひとつ叶えて差し上げましょう。すぐに生涯を終えられて、なんでも手に入るおまけ付き。あなたにとっては願ったり叶ったりだと思うのですが」
話を聞いて、確かにそうだと思った。今まで生きてきて、幸せだと思ったこと、楽しいと思ったことは、ほとんどなかった。そんな私にとって、この死神が持ちかけてきた契約内容はかなり魅力的だった。
もちろん、こんな突然現れた死神を信用するなんて馬鹿げた話だとは思う。けれど、それで何か取り返しのつかないことになっても、もうどうでもよかった。むしろ、自分が壊れてしまうのならば、そちらの方が良いとさえ思った。
私はじっと死神の目を見つめ、できるだけ頭を空っぽにしながら、こう呟いた。
「契約します」
私の言葉を聞くと、死神は少し驚いた顔をした後で、柔和な笑顔を浮かべた。
「おお、そうですか。これは物分りがいいことで。それでは早速あなたの寿命を頂きますね」
言うや否や彼は手に持っていた大きな鎌を私に向かって振りかざす。
私は反射で手を顔の前にかざしたけれど、意味はなく、私の身体からは魂のようなものが、死神の鎌に引っかかって抜けていった。
それを懐にしまうと、死神は仕切り直しという風に手を叩き、もう一度私の方に向き直る。
「それでは、寿命を頂いた変わりに、優羽さんが何か望むものを何でも与えて差し上げましょう」
私はぎゅっと手のひらを握る。何を頼むかは、この契約を聞いた時から、既に決めていた。人生で何度も願ったけれど、叶わなかったもの。
「私は……私は、好きな人に、愛されたい」
ぽつりと言った瞬間、視界が歪み目の前の死神がほくそ笑む。
「それでは、残りの寿命をどうか無駄になさらぬよう」
死神の声を聞きながら、視界が暗転して行くのを遠い意識の先で感じた。私は気がつくとその場で深い眠りの底に連れ去られていた。
六月十三日の今日、私は十八歳の誕生日を迎えた。けれど、それを祝ってくれる友達や親族は誰もいない。
常に付きまとう孤独も、受験の重圧も、もう耐えられそうになかった。
考えれば考えるほど、ただ虚しさが募るばかりで、私は勢いよく目の前のフォークを殴りとる。
自暴自棄になって、一人用のショートケーキに力いっぱいフォークを突き刺した。その時だった。
骨がむき出しになった顔。黒い装束。巨大な鎌。それらを携えた幽霊のような物体が、突如私の目の前に現れた。
驚いた私は、両手を床に着き、へたれこむ。上手く呼吸が出来なくて、その場で口をぱくぱくとさせる。肺が痛い。
「こんばんは。今晩、あなたとの契約交渉に伺いました死神です」
言いながら、彼はそっと人差し指をこちらに向ける。
すると、過呼吸気味だった私の体は力が抜けて軽くなり、自然体へと戻っていった。それに伴い、私は口を開く。
「契約……?」
「そうです。優羽さん、今のあなたはもう生きることに価値を見出していません。死に方が分からないだけで、本当はずっと消えてしまいたいと思っている。そうでしょう?」
心の内を見抜かれたようで、ドキッと心臓が跳ねる。
それもまた見透かされたのか、死神が再度言葉を継ぐ。
「そんなに怯えなくて大丈夫ですよ。これはあくまで交渉ですから」
私はそれに、こくりと頷く。
死神は無機質な顔で、にこりと微笑み返して、
「それでは本題に入りましょう」
と告げた。
「優羽さんあなたの寿命、残り五日を残して私に預けるというのはどうですかね。もちろんタダでとは言いません。変わりに、望みをひとつ叶えて差し上げましょう。すぐに生涯を終えられて、なんでも手に入るおまけ付き。あなたにとっては願ったり叶ったりだと思うのですが」
話を聞いて、確かにそうだと思った。今まで生きてきて、幸せだと思ったこと、楽しいと思ったことは、ほとんどなかった。そんな私にとって、この死神が持ちかけてきた契約内容はかなり魅力的だった。
もちろん、こんな突然現れた死神を信用するなんて馬鹿げた話だとは思う。けれど、それで何か取り返しのつかないことになっても、もうどうでもよかった。むしろ、自分が壊れてしまうのならば、そちらの方が良いとさえ思った。
私はじっと死神の目を見つめ、できるだけ頭を空っぽにしながら、こう呟いた。
「契約します」
私の言葉を聞くと、死神は少し驚いた顔をした後で、柔和な笑顔を浮かべた。
「おお、そうですか。これは物分りがいいことで。それでは早速あなたの寿命を頂きますね」
言うや否や彼は手に持っていた大きな鎌を私に向かって振りかざす。
私は反射で手を顔の前にかざしたけれど、意味はなく、私の身体からは魂のようなものが、死神の鎌に引っかかって抜けていった。
それを懐にしまうと、死神は仕切り直しという風に手を叩き、もう一度私の方に向き直る。
「それでは、寿命を頂いた変わりに、優羽さんが何か望むものを何でも与えて差し上げましょう」
私はぎゅっと手のひらを握る。何を頼むかは、この契約を聞いた時から、既に決めていた。人生で何度も願ったけれど、叶わなかったもの。
「私は……私は、好きな人に、愛されたい」
ぽつりと言った瞬間、視界が歪み目の前の死神がほくそ笑む。
「それでは、残りの寿命をどうか無駄になさらぬよう」
死神の声を聞きながら、視界が暗転して行くのを遠い意識の先で感じた。私は気がつくとその場で深い眠りの底に連れ去られていた。


