君のとなりで

お出かけ

放課後の廊下は、夕陽のやわらかなオレンジ色に包まれていた。ガラス窓から差し込む光が、床に長く影を伸ばし、ふたりの足元を淡く揺らしている。

「礼央先輩とデート？！マジで？」

玲奈が目を輝かせて、まるで映画のワンシーンのように声を弾ませた。

真衣はその言葉に一瞬きょとんとした顔をして、慌てて首を横に振る。

「デートじゃないよ！ただの……お出かけっていうか。」

玲奈はくすっと笑って、腕を組んだまま真衣の顔をのぞき込むようにする。

「へぇ？でもふたりでどこか行くって、それって普通デートって呼ばない？」

真衣は少し頬を染めて、視線を足元に落とした。靴のつま先を見つめながら、小さな声でつぶやく。

「まあ、そうかもしれないけど…… そこに恋愛感情はないと思う。」

玲奈は数秒真衣の顔を見つめたあと、ふいに声のトーンを軽く変えた。

「真衣、私の服貸してあげる。だから、帰りにうちに寄ってって。」

真衣は驚いたように目を見開いて、思わず玲奈のほうを振り返る。

「えっ、でも、そんな悪いよ…」

「なに言ってんの。こういうときこそ、女子同士で盛り上がるのが楽しいんだから。」

玲奈は笑いながら真衣の肩をぽんと軽く叩いた。

ふたりは並んで歩きながら玲奈の家へと向かった。夕暮れの街は静かで、どこか甘い秘密を抱えているような空気だった。

玲奈の家に着くと、彼女はさっそく自室のクローゼットを開け、きらきらとした目で服を選び始めた。そこから取り出されたのは、どれも洗練された雰囲気をまとった、可愛らしいワンピースやブラウスたち。

「これ。淡いピンクのワンピースなんだけど、シンプルで上品なの。特別な日にぴったりでしょ？」

真衣はそれを手に取りながら、しばらく見つめる。そのやわらかな色合いと質感に、自然と心がときめいた。

「それとね、これもおすすめ。」

玲奈は白いレースのブラウスをアナの胸元に当ててみせる。

「ジーンズに合わせたら、カジュアルだけどちゃんと華やかに見えるの。あとはこのスカート。花柄だけど、派手すぎないから大人っぽい印象になるよ。」

そして、最後に差し出されたのは淡いブルーのシフォンブラウスだった。ふわりと風を孕むような軽やかさと、清楚な印象が目を引いた。

「どれも真衣に似合いそう。着てみて、しっくりくるの選んで。礼央先輩と行くんだから、ちょっとだけ特別感、出していこ？」

真衣は照れくさそうに笑いながら、手にしたワンピースを胸に当てた。

自分でもまだはっきりとは分からない「気持ち」――それでも、こうして少しずつ変わっていく自分に、少しだけ期待してしまう。心の中に、いつの間にか小さなときめきが芽生えていた。