氷壁エリートの夜の顔
 その名前が出た瞬間、私は手元のレモンを落としそうになる。まるで心の中を覗かれたようで、言葉が詰まった。

 八木さんは、そんな私の反応には気づかないまま、さらりと続けた。

「実はさ、さっき駅で見かけたんだよ。俺の仕事のパートナー──香坂絢音ちゃんと一緒に歩いてた。なんか、ちょっといい雰囲気だったな」

 その言葉が胸の中で凍りつく。

「……嘘」

「嘘じゃないって。ほんとについさっき──」

 そう言いかけたところで、八木さんはようやく私の表情に気づいたようだった。

「あ……ごめん」

「……いえ、大丈夫です」

 そう答えたけれど、うまく笑えない。声も、少しだけ震えていた。

──やっぱり、そういうことなのか。

 結局、その日も、その翌日も──結城さんは、古美多に姿を見せなかった。
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