氷壁エリートの夜の顔
 すっと通った鼻筋に、涼しげな目元。
 見る角度によって印象が変わる、整いすぎた横顔。
 そして──吸い込まれそうなほど澄んだ瞳に、どこか近寄りがたい凛とした雰囲気をまとっている。

──なるほど。社内がざわついていた理由が、ようやくわかった。

 彼は課長の隣に立つと、まっすぐに私に向き直った。

「今回の案件、桜さんと組むことになりました。結城(ゆうき)颯真(そうま)です。よろしくお願いします」

(さくら)(さき)です。よろしくお願いします……覚えやすい名前だねって、よく言われます」

 形式ばった笑みを浮かべながらそう言ったものの、彼の表情は一ミリも動かない。返事もなければ、愛想笑いすらない。
 懐かしのペッパーくんの方が、よっぽど表情豊かだ。

* * *

 これが、私と結城颯真さんの出会いだった。

 冷たそうだけど、優秀みたいだし、一緒に成果を出せれば、ボーナスだってちょっとは上がるかもしれない──そんなふうに、軽く思っていた。

 でも、今ならわかる。
 きっとあの瞬間から……私の知らない物語が、始まっていた。
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