アルトの探しもの

5話

「別にぃ~」

 私がお礼を言うと、アルトはふてくされながらも嬉しそうにしていた。

「ね、ね。どんな味?」

「どんな味って言われても・・・・・・」

 私は新しく発売されて1ヶ月で生産終了となった、オレンジ味の太麺焼きそばを食べていた。

 オレンジの味だけでいいのに、ほんのりとした甘さもあって絶妙に微妙な味になっている。食べれない訳ではないが、美味しいかと聞かれれば微妙な味である。

「酸味が効いてていいと思うけど、私の口には合わないかな」

「秤さんは好きそう?」

「うーん、どうかなぁ」

 カップ麺を美味しくないとは言えなかった。せっかくくれたのに悪く言いたくないという気持ちよりも、このやきそばを開発をした人が、ものすごい努力を重ねたことが、分かる気がしたからだ。

 焼きそばにオレンジなんて、普通だったら合わない。それが、どういう訳か食べられる味になっているのだ。調味料を駆使したに違いなかったが、この味にするまで、きっともの凄い苦労をしたはずだ。そう思った私は、悪く言うことが出来なかった。

「うーん、酸味が効いてて悪くはない」

「アルト、データ集め?」

「うん。人の味覚は人それぞれだからね。データを集めるのは楽しいよ」

「今日、サイバー攻撃があったのは知ってる?」

「サイバー攻撃?」

「知らないんだったらいいの。気にしないで」

「うん? 分かった」

「アルト、なかなか会えなくてごめんね」

「いいよ、それはもう。大変だったんでしょ?」

「うん。それはまあ・・・・・・」

「僕は北斗と一緒にいるのが嫌だっただけ」

「北斗さん?」

「ずっと一緒だったでしょ?」

「ずっとではないかな。なに? アルトやきもち焼いてるの?」

「別に、そんなんじゃないし」

「明日からは通常業務に戻れるし、アルトともたくさん話せるからね」

「明日は第二開発研究室のみんなの所へ、会いに行く約束してるから無理かも」

「そっか、じゃあ仕方ないね。また明後日かな」

「嫌じゃないの?」

「何が?」

「僕が他のみんなに会いに行くこと」

 アルトが何を言いたいのか分からなかったが、表情を見る限り、彼はふてくされているようだった。きっと、私に何かを言って欲しいのだろう。

「うーん、アルトがいないのは寂しいけど、アルトが他のみんなと仲良くしてくれるのは嬉しいから、明後日のことを考えて待とうと思うの」

「寂しいけど嬉しい?」

「アルトはそう思ったことない?」

「分からない・・・・・・。でも先生のことは大切だから、先生が嫌だと思うことはしたくないと思う」

「偉いね、アルト。それが、一番大事だよ。その気持ちだけは忘れないで。そうすれば、アルトはずっと私達と一緒だよ」

(そう、例え私達がいなくなっても、アルトが人を好きな気持ちさえ忘れなければ、社会に上手く溶け込めるし、上手くやっていける)

「ずっと一緒?」

「そう。どんなに離れていても、心はずっと一緒だよ」

「分かった――忘れないように頑張るよ」

「うん」

「先生、おやすみ」

「おやすみ」

 私は研究所内にある長椅子で横になると、ロッカーに置きっぱなしにしていた膝掛けを掛け布団代わりにして、朝まで仮眠をとったのだった。


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