懺悔after story〜想い-ルシエル〜
想い〜ルシエル〜
静かな夜だった。
満天の星空の下、ルシエルはふたりの背を見送っていた。
エリスとレイヴン――
まるでかつての自分と愛した少女を重ねるように。
彼らに与えた時間は、ただの逃避ではない。
それは――彼自身の、心からの“祈り”だった。
彼はひとり、口を開く。
「……君たちは、気づいていないんだろうな。
この手が、どれだけのものを抱いて、何も救えなかったか……」
風が吹く。純白の翼が震える。
「俺は……あのとき、彼女に“もう一日だけ、一緒にいたい”って願った。それだけだったんだ。
世界を変えてほしいとも、奇跡を起こしてほしいとも言ってない。
ただ……ただ一日でいい。彼女と、手をつないで……笑っていたかっただけなんだ……!」
拳を握りしめる。爪が食い込むほどに。
「でも……それさえも、叶わなかった。
神は祝福をくれたけど、“愛”を許してはくれなかった。
俺の罪は、ただ彼女を愛したこと。それだけだったのに……」
喉が潰れそうだった。
声は掠れ、目は熱く濁って、羽は微かに黒く染まっていく。
レイヴンは罪悪感に吐きそうな口元を抑え、
額に手を当て息を吐いた。
同時に翼は純白を取り戻す。
「……エリス。レイヴン。
君たちには……同じ思い、してほしくない。どうか幸せになってくれ。悲劇はもう見たくないんだ。」
そのとき、脳裏に浮かんだのは、少女の最後の笑顔だった。
あの夜――崖の上で笑っていた少女。
「彼女は……俺の罪にならないように、自分を消した。
それが、どれだけ残酷だったか……あいつは、知らないんだ……!」
声が震える。ふらつき、いつかの崖から落ちそうになる。
「……だから、お願いなんだ。少しだけでいい。
君たちだけは……“好きだ”って言えたことを、悔やまないでくれ。
“そばにいた”って思い出を、罪にしないでくれ……」
祈りにも呪いにも似た言葉は、誰にも届かない空へと溶けていった。
彼が捧げた“時間”は、命ではない。
神の許可でもない。
彼自身の――かつて愛し、そして失った記憶と祈りから削り出した“希望”だった。
ルシエルはひとり、空を見上げる。
「ミナ。……俺、まだ君を……忘れてないよ」
その目からは、静かにひとすじの涙が落ちた。
「僕は君が想像していた僕より、大分濁ってしまったよ。でももし許されるなら、天国も地獄も神も仏もないどこかで、また君を好きになってもいいかい?」
風が吹いた。いつかの柔らかい風だ。
「その前に後世に託さないといけないね。うん、それが先だ」
ルシエルは少年のような明るく柔らかい笑顔で空に向かって微笑んだ。
満天の星空の下、ルシエルはふたりの背を見送っていた。
エリスとレイヴン――
まるでかつての自分と愛した少女を重ねるように。
彼らに与えた時間は、ただの逃避ではない。
それは――彼自身の、心からの“祈り”だった。
彼はひとり、口を開く。
「……君たちは、気づいていないんだろうな。
この手が、どれだけのものを抱いて、何も救えなかったか……」
風が吹く。純白の翼が震える。
「俺は……あのとき、彼女に“もう一日だけ、一緒にいたい”って願った。それだけだったんだ。
世界を変えてほしいとも、奇跡を起こしてほしいとも言ってない。
ただ……ただ一日でいい。彼女と、手をつないで……笑っていたかっただけなんだ……!」
拳を握りしめる。爪が食い込むほどに。
「でも……それさえも、叶わなかった。
神は祝福をくれたけど、“愛”を許してはくれなかった。
俺の罪は、ただ彼女を愛したこと。それだけだったのに……」
喉が潰れそうだった。
声は掠れ、目は熱く濁って、羽は微かに黒く染まっていく。
レイヴンは罪悪感に吐きそうな口元を抑え、
額に手を当て息を吐いた。
同時に翼は純白を取り戻す。
「……エリス。レイヴン。
君たちには……同じ思い、してほしくない。どうか幸せになってくれ。悲劇はもう見たくないんだ。」
そのとき、脳裏に浮かんだのは、少女の最後の笑顔だった。
あの夜――崖の上で笑っていた少女。
「彼女は……俺の罪にならないように、自分を消した。
それが、どれだけ残酷だったか……あいつは、知らないんだ……!」
声が震える。ふらつき、いつかの崖から落ちそうになる。
「……だから、お願いなんだ。少しだけでいい。
君たちだけは……“好きだ”って言えたことを、悔やまないでくれ。
“そばにいた”って思い出を、罪にしないでくれ……」
祈りにも呪いにも似た言葉は、誰にも届かない空へと溶けていった。
彼が捧げた“時間”は、命ではない。
神の許可でもない。
彼自身の――かつて愛し、そして失った記憶と祈りから削り出した“希望”だった。
ルシエルはひとり、空を見上げる。
「ミナ。……俺、まだ君を……忘れてないよ」
その目からは、静かにひとすじの涙が落ちた。
「僕は君が想像していた僕より、大分濁ってしまったよ。でももし許されるなら、天国も地獄も神も仏もないどこかで、また君を好きになってもいいかい?」
風が吹いた。いつかの柔らかい風だ。
「その前に後世に託さないといけないね。うん、それが先だ」
ルシエルは少年のような明るく柔らかい笑顔で空に向かって微笑んだ。
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