君が最愛になるまで
料理を食べきった和樹は伝票を持って1人で立ち上がった。
いつもなら私が食べ切るまで嬉しそうに微笑みながら見守ってくれていたのに。


ゆっくりでいいよ、なんて優しく私に言ってくれたのに。
彼の瞳にはもう私は映っていない。


「和樹。ありがとう。ずっと好きでいてくれて」

「⋯⋯ん、身体には気をつけて」


最後の最後まで彼は優しい。
ひどいことをしたというのに、和樹は私を気遣ってくれた。


涙を流す資格だってない。
私は必死に下唇を噛み締め、溢れ出そうになる感情を必死に押しとどめる。


私から離れていくその背中をじっと見つめた。
大きな愛で包み込んでくれた和樹を私は自分で手放してしまったことを今更ながら気づいてしまう。


放心状態になる私はそれからどのようにお店を出たか覚えていない。
だけど運ばれてきた料理はお皿には乗っていなかったため多分食べたんだろう。


だけど味なんて何も覚えてなくて、気づいた時にはお店を出ていた。
私は呆然とする指先である人へ電話をかける。


『もしもし。紬希、どうしたの?』

「⋯⋯沙羅(さら)ちゃん」


電話の向こう側から聞こえたその声は少し低めの声で、だけど私の名前を呼ぶその声音は心配そうだった。
その声を聞いた私の感情は思わず溢れ出してしまう。


「沙羅ちゃん⋯っ、わたし⋯っ」

『今どこにいる?すぐ向かうからそこで待ってて』


お店の近くで10分ほど待っているとサマーニットにスキニーパンツを履いたスタイルのいい女性が足早に向かってきた。
肩に付かない程の長さの髪を耳にかけ、カバンひとつだけ持って来てくれる女の子。


「紬希っ!」

「⋯沙羅、ちゃんっ」

「どうしたの?」

「私⋯⋯最低なの」

「⋯とりあえず、うちにおいで?ここから近いし」


私は沙羅ちゃんに連れられて彼女が住んでいるマンションにやって来た。
ソファに座らされ、沙羅ちゃんが注いでくれたアイスコーヒーを受け取ると私の隣に沙羅ちゃんが静かに座る。


本並沙羅(もとなみさら)ちゃんは中学からの同級生で私の1番の親友だ。
私の全てを知る1人だった。


注いでくれたアイスコーヒーに口をつけてゆっくりと気持ちを落ち着かせる。
こんな気持ちになる資格なんてないというのに。


「和樹に振られたの」

「あら、そっか。1年くらいだっけ?」

「私のせいなんだよね。和樹に言われた。俺を見てない気がするって⋯」

「⋯⋯毎回、そんな内容で振られてるわよね紬希って」


私はずっと引きずっている恋心があった。
幼なじみの彼への初恋で、ずっと消し去ることができないそんな淡い想い。


彼への想いが私にとっての足枷になっており、忘れられないその初恋のせいで自分を見ていない、と振られてしまった。
私に向けてくれる優しい笑顔や面倒見のいい彼の姿が私の脳裏にこびりついてなかなか離れてくれない。


「初恋、引きずってるもんね紬希はずっと」

「うん⋯ほんと、なんで忘れられないんだろ」

「そりゃ好きだからでしょ?」


初恋の彼は私が中学1年の頃を最後に会っていない。
5歳年上の彼が大学生になったタイミングで遠くに行ってしまい、それ以降は会っていなかった。


中学1年までは家が近所で私たちはいわゆる幼なじみという関係だ。
まるで兄妹のように育ってきた私が彼に恋心を抱くのに時間はかからなかった。


「紬希さ、もういい加減、前向いた方がいいと思うよ。和樹くんを傷つけたのは紬希のその中途半端な思いのせいだからね」

「⋯そうだよね」
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