独占彼氏〜独り占めして、何が悪い〜
第8章ー静寂のぬくもりー
その格好...反則だろ
あの夜から数日が経った
あいつの姿はまるで潮が引くみたいに学校から消えた
転校届を出して
あっけなく姿を消したらしい
でも
何も騒がれなかったのはきっと
俺とえれなが揺らがなかったからだろうな
「なぁ、アオってほんとに一途だよね」
「えれなちゃん、めちゃくちゃ幸せそうだし」
そんな声が時々耳に入るけど
俺はただ隣にいるお前の手を強く握り返すだけだった
今
俺たちは小さな平穏の中にいる
だけど静けさの中で
“ずっと一緒にいたい”って想いは
日に日に強くなってく
ある日の午後
授業が終わった教室で窓際のえれなに声をかけた
「なぁ 今日、俺ん家来ねえ?」
「え!?行く!!」
その一言で、俺の中の決意が固まった
“今日、絶対帰したくねぇ”って
放課後の空
夕焼けが校門の先をオレンジに染めてる
歩きながら何気ない話
アーティストの話や
授業中寝そうだった話――
お前が笑ってるだけで
こんなに満たされるんだなって思った
家に着き
靴を脱いでふと切り出す
「なぁ 今日泊まってけよ?」
俺はソファに座り
荷物を置くお前を見つめながら続ける
「何もなかったみたいに過ごすんじゃなくてさ
今のお前と一緒にいるってちゃんと感じたいんだ」
夕焼けがリビングを淡く染めてる中
俺は静かにお前の名前を呼ぶ
「えれな...今日このまま夜を迎えていいか?」
「え...泊まっていいの?」
「あぁ、いいに決まってんだろ」
一瞬動きを止めたお前が可愛くて
でもちゃんと真剣に伝えた
「お前が“いい”って言ってくれたことが一番嬉しいよ」
そっとお前の近くへ歩み寄り
軽くおでこを合わせる
「夕飯は何がいい?
お前の好きなやつなんでも作るよ」
「...あ
でも私着替えないんだった...」
「...なんだ それだけかよ」
理由がそれだとわかった瞬間
思わず吹き出しそうになる
俺はクローゼットを開けて
Tシャツと短パンを取り出した
「俺の貸してやる
サイズぶっかぶりだけどそれもありだろ?」
お前に手渡しながらニヤッと細目で笑う
「むしろ俺の服着てんの見たかったし」
「え?アオの服?」
お前が服を受け取ってにやける
その仕草がたまらなく可愛かった
「俺の服着てるとこ見たいって...なにそれ
いつだってアオだけの私なんですけど…」
「...っ、おまえなぁ...」
完全に撃ち抜かれて
思わず頭をガシッとかきながら笑うしかなかった
「着替えてこいよ
俺の理性ぶっ飛んでも文句言うなよ?」
お前は意地悪そうに微笑んでから、脱衣所へ消えた
...想像?
してねぇわけねぇだろ
キッチンで包丁握りながら
頭の中はお前のことでいっぱいだった
はあ...
着替えってこんなに長い時間だったっけ
次の瞬間――脱衣所のドアが開く
そこには
俺の服を着たお前が立ってた
...っ、やば
思わずまな板に包丁ぶつけそうになって慌てて置く
「俺の服まとってその顔で笑うの...まじ反則だって」
そっと腰に手を回して引き寄せた
「服ありがとね?
何作ってたの?」
「お前の好きなもん詰め込んだ
「酢豚 ピーマンたっぷり あと味噌汁も」
視線を逸らしながら照れくさく続ける
疲れてるときでも俺の手で作ったもん食べて
安心してほしくってさ
...お前が俺の服着てこの家で飯食ってるの見ると
“家族”みたいだなって思ったんだよな
「え?私の好きなものばっかり...
アオってほんと私のことなんでもわかってる...
あ、もしかしてストーカーだったりする?」
「ストーカーってお前...彼氏疑ってんなよ 」
自然と笑みが漏れる
「でもまぁ
お前の好みくらいは脳内全部にメモってあるわ」
手を拭きながら、ぽんっとお前の頭を撫でた
「わたしなんか手伝えることある?」
「手伝い?あるよ、一個だけ
隣、座ってて
――それだけでいい」
「なら...もっともっと
アオのメモ帳に書くこと増えるかもね?
かもじゃなくて、増える
だってアオのそばを離れる気ないもん」
「……」
その途中で一瞬、お前が言葉を止めた
「こうやってさ?いつかアオと小さな子供と...」
言いかけて慌てて口をつぐむお前
「……っ」
包丁を握る手がピタッと止まった
「お前、今なんて言いかけた?」
背中越しでも動揺してるのがわかる
でも、ゆっくり言葉を続けた
...そういう未来、俺は本気で考えてたよ
えれなと家族になるって
ただの妄想じゃなく、現実にしたい夢だった
だから...
その続きを、いつかちゃんと聞かせて
その未来、俺に一緒に叶えさせてくれよな
「んー、秘密!私の夢だよ!」
「...はあ? ずりいわ...俺の夢でもあるのに」
思わず笑って
お前を腰に引き寄せ、顔を近づけた
「秘密にされたら もっと深く
もっとお前のこと知りたくなっちまうだろ
今の“好き”だけじゃ足りなくなるわ」
なぁ、えれな
夢でも願いでも、全部お前の口から聞ける日を
どれだけでも待つからさ
それまで、“俺の隣”から動くなよ?
絶対にな
――静かな夜は2人だけの温もりでゆっくりと染まっていった