最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―
エピローグ ―君の記憶と、永遠に―
それは、もう誰にも止められなかった

記憶が薄れても
時間が過ぎても

あの名前だけは
確かに悠の中に、ずっと残ってた

 

――けれど

運命は時に、残酷で
どうしようもなく、静かにすべてを奪っていく

 




 

あれから数日後

ふたりが再会したあの日の病室で
悠は――

静かに眠ったまま、帰らぬ人となった

 

最後に残されたのは
ふたりの“記憶帳”と

その最終ページに、たったひとことだけ

悠の字で、こう書かれていた

 

 

『菜亜、好きだよ』

 

 

それを見た瞬間
胸の奥で、なにかがほどけていくのがわかった

 

泣いて、泣いて、
声が枯れるほど泣いて

それでも最後に笑って言えた

 

「ありがと、悠」

「こんなにも、愛してくれて」

 

 

あれから一年

 

菜亜は高校を卒業し
春から新しい生活が始まった

 

それでも時々、あの橋を渡る

夜の風に吹かれながら
思い出すのは、悠が言ってくれた最後の言葉

 

『菜亜』

 

 

あの声が
今も心の中でずっと響いてる

 

目を閉じれば
夏の花火も
照れた横顔も
「傘、貸してやるよ」っていう意地悪な声も

全部、そこにいる

 

 

「…ねえ、悠」

「わたし、今でもちゃんと笑えてるよ」

「だって――」

 

 

「最後に、名前を呼んでくれたから」

 

 

永遠なんて、どこにもない
けど、あの瞬間は確かに、永遠だった

 

あの人の記憶と、今も一緒に生きている

 

 

だから今日も
名前を呼ばれるたびに、胸があたたかくなる

 

そのたびに
世界でいちばん幸せな恋をした自分を、誇りに思える

 

 

その日も、菜亜は記憶帳を開いていた

最後のページ――
『菜亜、好きだよ』の文字のすぐ下に

ふと、こんな文字が目に入る

 

 

『10』

 

 

それだけだった

何かの番号のようで、意味はわからない

けど、なぜか菜亜の心が小さくざわついた

 

ページの端に
滲んだようなメモ書きがあった

 

 

「今度こそ、忘れないように」

 

 

それが誰の言葉だったのか
今も、わたしにはわからない

でも
“この恋は、一度だけじゃなかったのかもしれない”って

そう思えた瞬間
涙が、またこぼれた

 

 

この恋は、もう終わらない

ふたりの“想い”が
ずっと、ここにあるかぎり――



――君に出会えてよかった

そう思える恋に、何度でも落ちていたい

たとえ、何回世界がやり直されても

 

 





その最後に



―― また君を選びたい ――

 





―おわり―

 
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