うちのかわいい愛猫が、満月の夜にイケメンに!? 主従関係になるなんて聞いてません!
5 眠りのふちの太陽
三日月祭のにぎわいのなかを、わたしはようやく家に帰ってきた。
屋外テーブルに置かれた、あたたかいランプの光と、おいしいお菓子。
優しい月の光に照らされて、みんなが笑いあっている。
さっき、タンポポが、目を覚ました。
いま、ヤクモとシロツメが、花かずらアパートまで送って行っているところだ。
家に帰ると、お母さんがレンゲを探していた。
わたしの部屋で寝てるよ、といったら「安心した」と、キッチンの掃除をはじめた。
レンゲが、キノ・キランになったことを、わたしだけが気づいている。
お風呂をすませ、後は寝るだけ。
でも、頭がぐるぐると渦巻いていて、ベッドに座っても、なかなか寝る気分にならない。
まだ、あの言葉が、脳内にこびりついて離れないんだ。
わたしは、レンゲの飼い主にふさわしいのかな。
「チカナ」
猫のすがたのレンゲがベッドに、ぼふんと飛び乗った。
「何を考えてる?」
「えっと、何も」
「嘘をつくな」
「嘘なんかじゃ……」
レンゲは、ふかふかのしっぽを、わたしの手首にしゅるりと巻きつけてきた。
「どれだけ、いっしょにいると思ってる? おまえの考えてることなんて、お見通しだ」
ジッとわたしを見つめると、まっすぐにレンゲはいった。
「いい子だから、いまは眠れ」
「……わかった」
仕方なく、ベッドに横になると、レンゲがとことこと、枕元にやってきた。
「珍しい。ここで寝るの?」
「ああ」
いつもは、お気に入りのクッションで寝てるのに。
どういう風の吹き回し?
「おまえは危なっかしいから、そばにいてやらないといけないと、今日学んだからな」
「レンゲのほうが、危ない目にあってたのに。ケガ、ほんとうに大丈夫なの?」
巨木に叩きつけられていたのに、レンゲはほとんど無傷だった。
キノ・キランが頑丈というのは、ほんとうらしい。
「ああ。だから、おまえは安心して、おれに守られていろ」
「……わかったよ。大きな、イケメン猫さん」
笑うと、心のなかのモヤモヤが、少しだけ晴れた。
レンゲのおかげだ。
「ありがとう、レンゲ」
「……ああ」
まどろむ頭の上に、ふわふわのしっぽのような感触を感じる。
やさしく、撫でてくれているみたいだ。
そのあたたかさに身を委ねていたら、やっぱりすっかり疲れていたようで、あっというまに眠りについてしまった。
■
氷漬けにされたナズナさまが目覚めないあいだも、霜月の宿によるキノ・キランの捕獲は続いていた。
わたしたちも、満月の夜にキノ・キランになりそうな動物たちを探して、保護をし続けた。
連れ去られそうになったら奪還し、見つからないよううちに帰した。
モクレンは、ナズナさまがいないので調子が出ないのか、ここ最近ずっとキセルを吸っている。
ヨモギのいいかおりで、モクレンの居場所がすぐにわかるようになるほどだった。
そして、ナズナさまが氷のなかで眠り続けて、数週間がたったころ。
レンゲといっしょに十六夜堂にきたら――ドダダダダッと、シロツメが、いきおいよくわたしの目の前に飛びこんできた。
「ナズナさまが目を! 覚ましたんや、来て!」
「――えっ!」
とたん、店の奥へ戻っていくモクレンを、わたしたちも追う。
ナズナさまの寝室に着き、ゆっくり引き戸を引く。
「床が水浸し……?」
「おそらく、目覚めたナズナの、ヤタガラスの炎で溶かされたんだろう」
レンゲが、いった。
モクレンはというと、水浸しの床に置かれたベッドのそばに立っていた。
びしょびしょに濡れた黒いカラスを、やわらかいタオルで拭いてやっている。
あのカラスって……。
「もー、ムチャしすぎですからっ! ほんま、ええ加減にしてくださいよ!」
「ごめんなあ。気いつけるさかい。かんにんやで」
あのカラスが、ナズナさまだったんだ。
温度を低めに設定したドライヤーで、ナズナさまを乾かしはじめた、モクレン。
そのとき、ようやくヤクモが寝室に入ってきた。
「ナズナさま、寝坊しすぎですよ」
「ほんまに寝坊しすぎたわ。みんなに、心配かけてもうて……」
カラスすがたのナズナさまだけど、シュン、とうなだれているのがわかる。
「ナズナさまが起きてくれた、それだけでいいんです。な? モクレン」
ヤクモがいうと、モクレンは黙ってうなずいた。
ナズナさまは安心したように、ふわりと羽を震わせた。
店に戻ると、カウンターのなかから、シロツメの声がいった。
「チカナちゃん。ごはん、食べていきなよ」
「え? いいの?」
「うん。ヤクモがいっしょに食べたいからって余分に――」
「はーい。そこまでな?」
シロツメの後ろに、目がすわっているヤクモが、ぬっと現れた。
い、いつのまに?
「気配くらい出しなよ。キノ・キランかとおもった」
「人間でも気配くらい消せるだろ?」
「ヤクモって、何者~?」
シロツメとヤクモの漫才を聞きながら、わたしとレンゲはカウンターテーブルに座った。
モクレンと、カラスすがたのナズナさまも、後ろのテーブルに着いている。
「さあ。ナズナさまの回復を祝って、みんなでごはんを食べよう」
ヤクモの声に合わせて、みんなで食事のあいさつをする
キノ・キランのみんなには、それぞれの好物。
人間には、玄米、根菜と油あげのみそ汁、ナスのあげびたし、ひじきと大豆のチーズいりたまご、鮭のホイル焼き。
ヤクモが「ふふふ~」と、ニヤニヤしながらいった。
「デザートは、どんぐりと雨水のクッキーだよ」
「うおおっ」
モクレンのこの反応。
もしかして、大好物?
ご飯を食べ終わるころ、ナズナさまが人型になって、店に戻ってきた。
白地にツバキ柄の着物に、赤いハカマ。
その上から黒レースの道中着、いわゆる着物用のコートを着ている。
ちょうどご飯を食べ終わったわたしは、席を立って、ナズナさまに駆け寄った。
「もう、人型に戻って、大丈夫なんですか?」
「おん、世話かけたなあ……おや。なあ、チカナ」
「はい?」
「あんたのレンゲが、なんかやっとるで。よう、見てみ」
ナズナさまが、ニヤリと微笑む。
わたしより先に食べ終わったレンゲは、近くのソファに座り、窓から外を見ていた。
そんなレンゲは、空の月を見あげながら、爪とぎの動作をしている。
しかし、それは猫のときにするのとは違う。
なぜか空中で、引っかく動きをしているのだ。
声をかけようとした、その時。
レンゲが引っかく動きをしていた、何もない空間から突然、何かがボトンと落ちてきた。
それは、レンゲがすきなクッションだ。
うちのリビングに置いてあるはずの。
「ええっ? ど、どうしたの、これ!」
驚く、わたし。
しかし、レンゲのほうも呆然としている。
あぜんとしながら、落ちたクッションを取りあげた。
間違いない。
レンゲのお気に入りのクッションだ。
それを見ていたナズナさまが、一気に笑い出した。
「ハハハッ! こりゃあ、すごい。爪とぎ? こないな、ちから見たことないわ」
「いつものように爪とぎをしただけだが……?」
笑われたことに、ムッとしているレンゲ。
「これは、キノ・キラン特有の能力や。シロツメも持っとるやろ? 『柴のムチ』のちからや」
花かずらアパートで、タルヒさんを捕まえてくれたシロツメの柴。
「キノ・キランになったものが、月から授かるといわれている、特殊能力。それは、個体ごとに違うといわれているんや」
「それじゃあ、レンゲの能力は」
「『爪で空間を裂く』ちから。どう使うかは、あんたら次第や」
なんだか、すごそうなちからを手に入れたレンゲに、なんだかわたしは誇らしくなる。
「レンゲってば、そんなにそのクッションのことがすきなの?」
いうと、レンゲはクッションではなく、わたしのほうをまっすぐに見つめ、ふわりと笑った。
「当たり前だ。チカナが選んでくれたものだから」
まぶしそうに目を細めて、わたしを見る瞳は、月のような黄金色に、複雑な紫や青が混じっている。
宝石のようにきらきらと輝いていて、わたしは少し照れくさくなる。
「そ、そっか。ありがとう」
「ああ」
にこっとほほ笑む、レンゲ。
それにしても、『爪で空間を裂く』能力か。
猫はよく爪とぎをするけれど、空間を裂いて、どうするんだろう?
この能力でシロツメみたいにうまく戦うには、どうすればいいのかな。
やっぱり……わたしじゃ、検討もつかない。
「ナズナさま。このレンゲの能力、どうやって使えばいいんでしょうか」
「ヤクモに相談してみたらええんちゃう」
そっか。ヤクモは、キノ・キランとのパートナーの先輩だもん。
いろいろ教えてくれるかもしれない。
「チカナ。キノ・キランのパートナーとして、成長してきたんとちゃう?」
「えっ……?」
ナズナさまにいわれ、大げさにギクリと反応してしまう。
「やっぱり、チカナは十六夜堂の一員にぴったりやわ。期待しとるよ」
わたしは「ありがとうございます」と、ナズナさまに頭をさげて、レンゲとヤクモがいるらしい中庭の菜園に向かった。
ナズナさまの住まいがある、十六夜堂の中庭。
実は、そこに行くのは、これが初めてだった。
ナズナさまと別れたあと、わたしはレンゲのほうをチラリと見あげた。
わたしの視線に気づいたレンゲが、優しくわたしを見おろした。
「……どうした?」
「なんだか、なし崩し的に、十六夜堂のキノ・キランになっちゃったね。まだ、十六夜堂の一員になるって、はっきり決まってないと思ってたんだけど」
「そうみたいだな。でも、おれはもう、チカナは十六夜堂の一員になりたいものなんだと思っていた。キノ・キランのちからになりたい、といっていただろう?」
「うん。でも、レンゲは……いいの?」
こっそりと、レンゲを見る。
すると、レンゲは相変わらず、わたしをきらきらとした瞳で見つめている。
「おれは、チカナが危険な目にあうことには、反対だ。でも、おまえがやりたいっていうんなら、それでいい。おれが、おまえを守ればいいだけだ」
「……じゃあ、十六夜堂の一員になってもいいの?」
「ああ。安心しろ。おれがいる限り、おまえに危険はおとずれない」
屋外テーブルに置かれた、あたたかいランプの光と、おいしいお菓子。
優しい月の光に照らされて、みんなが笑いあっている。
さっき、タンポポが、目を覚ました。
いま、ヤクモとシロツメが、花かずらアパートまで送って行っているところだ。
家に帰ると、お母さんがレンゲを探していた。
わたしの部屋で寝てるよ、といったら「安心した」と、キッチンの掃除をはじめた。
レンゲが、キノ・キランになったことを、わたしだけが気づいている。
お風呂をすませ、後は寝るだけ。
でも、頭がぐるぐると渦巻いていて、ベッドに座っても、なかなか寝る気分にならない。
まだ、あの言葉が、脳内にこびりついて離れないんだ。
わたしは、レンゲの飼い主にふさわしいのかな。
「チカナ」
猫のすがたのレンゲがベッドに、ぼふんと飛び乗った。
「何を考えてる?」
「えっと、何も」
「嘘をつくな」
「嘘なんかじゃ……」
レンゲは、ふかふかのしっぽを、わたしの手首にしゅるりと巻きつけてきた。
「どれだけ、いっしょにいると思ってる? おまえの考えてることなんて、お見通しだ」
ジッとわたしを見つめると、まっすぐにレンゲはいった。
「いい子だから、いまは眠れ」
「……わかった」
仕方なく、ベッドに横になると、レンゲがとことこと、枕元にやってきた。
「珍しい。ここで寝るの?」
「ああ」
いつもは、お気に入りのクッションで寝てるのに。
どういう風の吹き回し?
「おまえは危なっかしいから、そばにいてやらないといけないと、今日学んだからな」
「レンゲのほうが、危ない目にあってたのに。ケガ、ほんとうに大丈夫なの?」
巨木に叩きつけられていたのに、レンゲはほとんど無傷だった。
キノ・キランが頑丈というのは、ほんとうらしい。
「ああ。だから、おまえは安心して、おれに守られていろ」
「……わかったよ。大きな、イケメン猫さん」
笑うと、心のなかのモヤモヤが、少しだけ晴れた。
レンゲのおかげだ。
「ありがとう、レンゲ」
「……ああ」
まどろむ頭の上に、ふわふわのしっぽのような感触を感じる。
やさしく、撫でてくれているみたいだ。
そのあたたかさに身を委ねていたら、やっぱりすっかり疲れていたようで、あっというまに眠りについてしまった。
■
氷漬けにされたナズナさまが目覚めないあいだも、霜月の宿によるキノ・キランの捕獲は続いていた。
わたしたちも、満月の夜にキノ・キランになりそうな動物たちを探して、保護をし続けた。
連れ去られそうになったら奪還し、見つからないよううちに帰した。
モクレンは、ナズナさまがいないので調子が出ないのか、ここ最近ずっとキセルを吸っている。
ヨモギのいいかおりで、モクレンの居場所がすぐにわかるようになるほどだった。
そして、ナズナさまが氷のなかで眠り続けて、数週間がたったころ。
レンゲといっしょに十六夜堂にきたら――ドダダダダッと、シロツメが、いきおいよくわたしの目の前に飛びこんできた。
「ナズナさまが目を! 覚ましたんや、来て!」
「――えっ!」
とたん、店の奥へ戻っていくモクレンを、わたしたちも追う。
ナズナさまの寝室に着き、ゆっくり引き戸を引く。
「床が水浸し……?」
「おそらく、目覚めたナズナの、ヤタガラスの炎で溶かされたんだろう」
レンゲが、いった。
モクレンはというと、水浸しの床に置かれたベッドのそばに立っていた。
びしょびしょに濡れた黒いカラスを、やわらかいタオルで拭いてやっている。
あのカラスって……。
「もー、ムチャしすぎですからっ! ほんま、ええ加減にしてくださいよ!」
「ごめんなあ。気いつけるさかい。かんにんやで」
あのカラスが、ナズナさまだったんだ。
温度を低めに設定したドライヤーで、ナズナさまを乾かしはじめた、モクレン。
そのとき、ようやくヤクモが寝室に入ってきた。
「ナズナさま、寝坊しすぎですよ」
「ほんまに寝坊しすぎたわ。みんなに、心配かけてもうて……」
カラスすがたのナズナさまだけど、シュン、とうなだれているのがわかる。
「ナズナさまが起きてくれた、それだけでいいんです。な? モクレン」
ヤクモがいうと、モクレンは黙ってうなずいた。
ナズナさまは安心したように、ふわりと羽を震わせた。
店に戻ると、カウンターのなかから、シロツメの声がいった。
「チカナちゃん。ごはん、食べていきなよ」
「え? いいの?」
「うん。ヤクモがいっしょに食べたいからって余分に――」
「はーい。そこまでな?」
シロツメの後ろに、目がすわっているヤクモが、ぬっと現れた。
い、いつのまに?
「気配くらい出しなよ。キノ・キランかとおもった」
「人間でも気配くらい消せるだろ?」
「ヤクモって、何者~?」
シロツメとヤクモの漫才を聞きながら、わたしとレンゲはカウンターテーブルに座った。
モクレンと、カラスすがたのナズナさまも、後ろのテーブルに着いている。
「さあ。ナズナさまの回復を祝って、みんなでごはんを食べよう」
ヤクモの声に合わせて、みんなで食事のあいさつをする
キノ・キランのみんなには、それぞれの好物。
人間には、玄米、根菜と油あげのみそ汁、ナスのあげびたし、ひじきと大豆のチーズいりたまご、鮭のホイル焼き。
ヤクモが「ふふふ~」と、ニヤニヤしながらいった。
「デザートは、どんぐりと雨水のクッキーだよ」
「うおおっ」
モクレンのこの反応。
もしかして、大好物?
ご飯を食べ終わるころ、ナズナさまが人型になって、店に戻ってきた。
白地にツバキ柄の着物に、赤いハカマ。
その上から黒レースの道中着、いわゆる着物用のコートを着ている。
ちょうどご飯を食べ終わったわたしは、席を立って、ナズナさまに駆け寄った。
「もう、人型に戻って、大丈夫なんですか?」
「おん、世話かけたなあ……おや。なあ、チカナ」
「はい?」
「あんたのレンゲが、なんかやっとるで。よう、見てみ」
ナズナさまが、ニヤリと微笑む。
わたしより先に食べ終わったレンゲは、近くのソファに座り、窓から外を見ていた。
そんなレンゲは、空の月を見あげながら、爪とぎの動作をしている。
しかし、それは猫のときにするのとは違う。
なぜか空中で、引っかく動きをしているのだ。
声をかけようとした、その時。
レンゲが引っかく動きをしていた、何もない空間から突然、何かがボトンと落ちてきた。
それは、レンゲがすきなクッションだ。
うちのリビングに置いてあるはずの。
「ええっ? ど、どうしたの、これ!」
驚く、わたし。
しかし、レンゲのほうも呆然としている。
あぜんとしながら、落ちたクッションを取りあげた。
間違いない。
レンゲのお気に入りのクッションだ。
それを見ていたナズナさまが、一気に笑い出した。
「ハハハッ! こりゃあ、すごい。爪とぎ? こないな、ちから見たことないわ」
「いつものように爪とぎをしただけだが……?」
笑われたことに、ムッとしているレンゲ。
「これは、キノ・キラン特有の能力や。シロツメも持っとるやろ? 『柴のムチ』のちからや」
花かずらアパートで、タルヒさんを捕まえてくれたシロツメの柴。
「キノ・キランになったものが、月から授かるといわれている、特殊能力。それは、個体ごとに違うといわれているんや」
「それじゃあ、レンゲの能力は」
「『爪で空間を裂く』ちから。どう使うかは、あんたら次第や」
なんだか、すごそうなちからを手に入れたレンゲに、なんだかわたしは誇らしくなる。
「レンゲってば、そんなにそのクッションのことがすきなの?」
いうと、レンゲはクッションではなく、わたしのほうをまっすぐに見つめ、ふわりと笑った。
「当たり前だ。チカナが選んでくれたものだから」
まぶしそうに目を細めて、わたしを見る瞳は、月のような黄金色に、複雑な紫や青が混じっている。
宝石のようにきらきらと輝いていて、わたしは少し照れくさくなる。
「そ、そっか。ありがとう」
「ああ」
にこっとほほ笑む、レンゲ。
それにしても、『爪で空間を裂く』能力か。
猫はよく爪とぎをするけれど、空間を裂いて、どうするんだろう?
この能力でシロツメみたいにうまく戦うには、どうすればいいのかな。
やっぱり……わたしじゃ、検討もつかない。
「ナズナさま。このレンゲの能力、どうやって使えばいいんでしょうか」
「ヤクモに相談してみたらええんちゃう」
そっか。ヤクモは、キノ・キランとのパートナーの先輩だもん。
いろいろ教えてくれるかもしれない。
「チカナ。キノ・キランのパートナーとして、成長してきたんとちゃう?」
「えっ……?」
ナズナさまにいわれ、大げさにギクリと反応してしまう。
「やっぱり、チカナは十六夜堂の一員にぴったりやわ。期待しとるよ」
わたしは「ありがとうございます」と、ナズナさまに頭をさげて、レンゲとヤクモがいるらしい中庭の菜園に向かった。
ナズナさまの住まいがある、十六夜堂の中庭。
実は、そこに行くのは、これが初めてだった。
ナズナさまと別れたあと、わたしはレンゲのほうをチラリと見あげた。
わたしの視線に気づいたレンゲが、優しくわたしを見おろした。
「……どうした?」
「なんだか、なし崩し的に、十六夜堂のキノ・キランになっちゃったね。まだ、十六夜堂の一員になるって、はっきり決まってないと思ってたんだけど」
「そうみたいだな。でも、おれはもう、チカナは十六夜堂の一員になりたいものなんだと思っていた。キノ・キランのちからになりたい、といっていただろう?」
「うん。でも、レンゲは……いいの?」
こっそりと、レンゲを見る。
すると、レンゲは相変わらず、わたしをきらきらとした瞳で見つめている。
「おれは、チカナが危険な目にあうことには、反対だ。でも、おまえがやりたいっていうんなら、それでいい。おれが、おまえを守ればいいだけだ」
「……じゃあ、十六夜堂の一員になってもいいの?」
「ああ。安心しろ。おれがいる限り、おまえに危険はおとずれない」