蓮音(れおん) ―君に遺した約束―
エピローグ

『あなたのパパ』





ーー

春の午後

 

柔らかな日差しが
リビングのカーテン越しに差し込んでいた。

 

窓辺には
小さな女の子がちょこんと座っている。

 

蓮音――もう4歳になった。

 

 

棚の上に飾ってある蓮の写真を
じっと見つめていた。

 

写真の中の蓮は
いつもの優しい笑顔を浮かべている。

 

 

「ねえ、ママ」

 

突然、蓮音が声を上げた。

 

私は、キッチンで片付けていた手を止めた。

 

「ん?なあに?」

 

蓮音は振り返って
小さく首を傾げる。

 

「パパって…どんな人だったの?」

 

 

その言葉に
胸の奥がギュッと締めつけられた。

 

 

蓮音はまだ
パパのことを”思い出”としては知らない。

 

でも
ずっと写真を見て育ってきたから

 

少しずつ
「知りたい」って思いは育っていたんだろう。

 

 

私は深呼吸して
ゆっくりと蓮音の隣に座った。

 

 

「パパはね――」

 

「とっても優しくて
ちょっと不器用で…」

 

「でも、誰よりも強くて
誰よりも大切に守ってくれた人だよ」

 

 

蓮音は目を丸くしながら
静かに聞き入っている。

 

 

「ママのことも、あなたのことも
すっごく大事に思ってくれてたの」

 

 

私はふっと微笑んだ。

 

「ねえ、蓮音」

 

「パパね――
あなたの名前も、パパがつけてくれたんだよ」

 

 

蓮音は嬉しそうに笑った。

 

「パパが?わたしの名前?」

 

 

私は頷く。

 

「うん。パパが、最後に教えてくれたんだ」

 

 

蓮音は写真の蓮に向かって
小さく手を振った。

 

「ありがとう、パパ!」

 

「わたしの名前、気に入ってるよ!」

 

 

その姿を見ていたら――

 

また、涙が滲んだ。

 

だけど
もうあの日みたいに泣き崩れる涙じゃなかった。

 

ポロポロこぼれる優しい涙。

 

 

蓮の声が
また静かに胸の奥で響いた気がした。

 

『……泣くなよ 美咲』

 

 

私はそっと蓮音を抱き寄せた。

 

「会わせたかったな…」

 

「あなたに、パパの全部を…」

 

 

蓮音は不思議そうに私の顔を覗き込む。

 

「ママ、泣いてるの?」

 

 

私は笑った。

 

「ううん。泣いてないよ」

 

「――幸せだから」

 

 

春の風がそっと吹き抜けた。

 

写真の蓮が
優しく微笑んでるように見えた。

 

 

これからも――

 

私たちは
蓮が繋いでくれた日々を

 

ゆっくりと、丁寧に生きていく。

 

ーー

【 完】
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