アルト・レポート【アルトレコード】
 翌日の夕方、定時をいくぶんか過ぎた頃だった。
 新人からメッセージが届き、北斗はすぐに開いた。



 添付された絵は子どもらしい大胆な構図の猫だった。最初、頭の下にあるものが胴体だとは気が付かなかった。よく見ると四本の足があるし、しっぽらしきものがある。

『アルトが絵を描いてくれた。私が猫が好きって言ったら猫を描いてくれた。初めてにしてはすごく上手いと思う』
 報告にしては文章がくだけすぎているし、スマートさに欠ける。だが、それだけ嬉しかったのだろうか。

 そう思っていると、すぐに追加のメールが来た。

『アルトが描いてくれた絵、もうこれ、Tシャツにしたら大ヒット、バカ売れ間違いなしだと思う』

 さらにピコン、と着信が知らされる。

『アルトが「せんせい、かえっちゃうの?」と寂しい顔をしていた。え、なにこれ、私帰れないんですけど! キュン死確定!』

 立て続けにメッセージが届き、北斗はコーヒーを飲みながらそれを開く。

『えっほ、えっほ、伝えなきゃ、アルトがかわいいって伝えなきゃ!』

 北斗はコーヒーを噴きそうになり、慌てて飲み込んだ。
 何十年も前の古いネットミームをぶっこんでくるとは思わず、予想外過ぎた。げほげほと咳き込んでいると、追加のメッセージが来る。

『すみません、四件ほど誤送信です。読まずに消してください』

 北斗は笑いながらそれを見た。慌てている彼女の姿が目に浮かぶようだ。

『ごめんね、もう見ちゃった。誰に送ろうとしたの?』
 そう送ると、ややあって、返信が届く。

『誰にも送るつもりはなかったんです。ただ、アルトがかわいくてかわいくて。下書きに保存して、しばらくしたら削除するつもりでした』

『そっか。だけど、誤送信は場合によっては大変なことになるよ。充分に気を付けてね。それから、今後の報告書は普通に書いていいよ』

『今後はさらに気を付けます。申し訳ございませんでした』

 しょぼん、としているだろう彼女を思い浮かべ、北斗は苦笑を漏らした。
 ともあれ、便乗して無茶ぶりを取り消せたのだからよしとしておこう。

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