ネオンー教えてくれたのは"大人な恋"ー


また、いつもの席
また、いつもの時間

だけど今日の私は
少しだけ心の中がざわついてた

 

「こんばんは」

「こんばんは」

飛悠は変わらない笑顔で席に座る
その落ち着いた仕草に、いつもなら安心するはずなのに──

 

「最近ほんとに常連だね」

「…うん」

「大丈夫?飽きない?」

「なに、飽きて欲しいわけ?」

少し微笑むと
飛悠もほんの僅かに口角を上げる

けど
今日は、その微笑みの奥を
じっと見てしまっていた

 

「…この前」

ふと切り出す

「仕事終わったあと…誰かといた?」

飛悠は一瞬だけ手を止めた
けどすぐ、いつもの落ち着いた表情に戻る

「誰って?」

「黒い車の人」

「…ああ」

短く答えたあと
飛悠は少しだけ視線を外した

「まあ…店の人じゃないよ」

「仕事の関係?」

「そんなとこかな」

ぼかされた返事に
胸の奥がモヤモヤしていく

 

──私が知らない世界なんだ、やっぱり

 

「…プライベート?」

少しだけ踏み込んでしまった

飛悠は苦笑した

「玲那、好奇心旺盛だね」

「…だって気になるし」

「気にしなくていいよ。玲那が関わる話じゃない」

そう言われた瞬間
ズン、と胸が重くなる感覚がした

結局
私はまだ、“客”でしかないんだって
突きつけられた気がして

 

「…そっか」

小さく呟いた

飛悠はそれ以上何も言わず
静かにグラスの氷を回していた

少しだけ重たい沈黙が流れる

私のグラスの氷も、カラン…と音を立てた

「…さ」

小さく声を出す

「ん?」

「私って…さ」

自分でも何が聞きたいのか分からなくなる
でも言葉が止まらなかった

「他の…お客さんと、違う?」

飛悠は一瞬だけ、表情を動かさずに私を見つめた

その視線に、心臓がギュッと掴まれる感覚になる

「なんで?」

「…別に」

視線を外してストローを回す指が震えた

 

──ほんとは聞きたい
私だけが特別なのかって
でもそんなの、簡単に答えてくれるわけがない

 

「玲那は…ちょっと変わってるけど、楽だよ」

「…楽?」

「変な駆け引きもしないし、無理に甘えたりもしない」

またその言葉だった

“楽”
“扱いやすい”
それが褒め言葉なのか
突き放してるのか
もう分からなくなる

 

「でも…」

思わず口をついて出る

「楽なだけなら、わざわざ毎回私が来ても、別に嬉しくないでしょ?」

飛悠は少しだけ驚いた顔をした

ほんの僅かだけ
何かを探るように私を見た

「…嬉しくないわけじゃないよ」

静かな声だった

「玲那が来てくれるのは、別に嫌じゃない」

「……」

たったそれだけなのに
胸がまた、勝手に高鳴る

 

その一言が
また希望と不安を同時に押し付けてくる

 

──もっと知りたい
もっと欲張りになっていく自分が怖かった
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