結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
人気のペンションとはいえ、春休み前の平日はさすがに宿泊客は少ない。
「彩奈さん、そろそろ主人が帰ってくるからお風呂の準備お願いね」
「はい、準備できてます」
「海里君と出かけると子どもみたいにはしゃいじゃって、汗だくになるのよね」
そう言って、美和は笑っている。
オーナーは最近釣りにはまっていて、時間ができると散歩がてら湖に出かけて行く。
釣りに行くと言いながら、大抵は彩奈のひとり息子の遊び相手をしてくれているのだ。
四月から幼稚園に入園する海里は、彩奈と湊斗との間に生まれた子だ。
琵琶湖畔のペンションで働き始めた彩奈は、しばらく妊娠に気がつかなかった。
もともと生理は不順だったし、体調に変化もない。なんとなく胃のあたりがおかしい気がして、ようやく「もしかしたら」と思ったのだ。
ペンションが休みの日に産婦人科を受診して、妊娠していると年配の女医から告げられた。
そのときには、もう三ヶ月を過ぎていた。
自分に何が起こっているのかわからず戸惑っていたら、淡々とした口調で尋ねられた。
「お生みになりますか?」
黙り込んだ彩奈を見て、おそらく気に沿わない妊娠だと思われたのだろう。
「生みます」
彩奈は即答した。不安はあったが、しだいに喜びが湧き上がってきたのだ。
「おそらく出産は九月の二十日過ぎですね」
医師は記憶もおぼろげな最終月経日から、簡単に出産予定日を計算してくれた。