黒兎の相棒は総長でも止められない

気づきたくないのに

 

翌日の昼休み。

教室のいつもの席で、由梨と沙耶とお弁当を広げていた。

 

沙耶がサラダをつつきながら、ふと私の顔を覗き込んできた。

 

「ねえ七星」

 

「ん?」

 

「最近さ、ちょっと顔つき変わってきてない?」

 

「は?」

 

「なんかこう…ほんのり、乙女っていうか」

 

「なにそれ意味わかんない」

 

由梨もニヤニヤしながら加わってくる。

 

「わかる!なんかね、ふわっとしてる時あるよね最近」

 

「別にしてないし!」

 

「うそー。じゃあさ」

沙耶が少し身を乗り出してくる。

「例の送迎の人。凪くんだっけ?どうなの?」

 

「は…?」

 

一気に胸がドクンと跳ねた。

(いきなりそこ振ってくる!?)

 

「え、なにが」

 

「いやいや、ほら!最近めちゃくちゃ頻繁に送ってもらってるじゃん?お兄ちゃんの仲間って言ってたけどさ」

 

由梨も横からさらに追い打ちをかけてくる。

「しかもさ、あの人結構イケメンじゃない?なんか危険な感じもするし」

 

「え、別に!ただの送迎だし!」

 

「ふ〜ん?ほんとに〜?」

 

「ほんとだし!!」

 

二人は明らかに楽しそうにからかってくる。

私はお箸を持つ手に微妙に力が入ってしまった。

 

(……なんでこんなに動揺してんの、私)

 

沙耶がちょっと真面目な顔になる。

「でもさ…ぶっちゃけ自分のこと気にしてくれてる感じとか…ないの?」

 

「……わかんないよそんなの」

 

「七星は?」

 

「私…?」

 

思わず返事に詰まる。

 

今まで何回も送ってもらって
冗談みたいに「惚れんなよ」とか言われて
昨日だって迎えに来てくれて髪まで拭いてくれて――

 

思い返すたびに胸がドクドクしてくる。

 

「……別に…普通…」

 

「普通〜?」

 

「たぶん、きっと…たぶん、普通…」

 

二人は顔を見合わせて吹き出した。

 

「やばいじゃんそれ、もう好きじゃん!」

「ほぼアウトじゃん!」

 

「だから違うってば!」

 

私は慌てて否定しながら
でも、内心はどんどん顔が熱くなっていくのを止められなかった。

 

(……やばい…これ、やばいかも…)
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