年下敏腕パイロットは想い焦がれた政略妻をこの手で愛して離さない
父も渋々了承したけれど、内心はすぐにでも「娘がグループのトップの御曹司と結婚する」と発表したかったのだと思う。
それでもどうしても、少しだけ時間が欲しかった。

その理由は自分でもわかっていた。彼ほどの人気がある人と、私のような年上の相手では、確実に彼にも私にも仕事に影響が出る。それでも、彼の妻だと言い切れる自信が私にはなかった。誰もが「あの人ならぴったり」と思ってもらえるような人間ではない。
自分に対する自信のなさ――それが最大の問題だ。

「沙羅なら、きっとすぐに“私が妻です”と堂々と挨拶できるんだろうな……」

そんなことを思ってしまいため息を吐きつつ視線を上げると、ふと、クローゼットの端に吊るされた古い制服に目が止まる。学生時代に着ていたものだ。早々に処分すればよかったのだが、なんとなくかかったままになっていた。
あのころの自分と今の自分はなにが変わっただろうか――そんなことを考えていると、また気分が沈みそうになる。

「……ダメだ、しっかりしなきゃ」
首を振って気を取り直し、荷物の整理を再開しようとした、そのときだった。

< 128 / 274 >

この作品をシェア

pagetop