練習しよっか ―キミとは演技じゃいられない―

心臓が…


「よし、次のシーンやろうか」

 

涼真くんが台本を軽くトントン叩きながら
ちょっといたずらっぽく笑った

 

「今回は…“家でふたりでまったりしてるとこ”のシーンだな」

 

「う、うん…」

 

私の心臓は
さっきからずっと落ち着かない

 

「自然な距離感作りたいから、ちょっと寄って」

 

「えっ…」

 

「いや、台本通りの位置取りだって」

 

「……わかった」

 

ソファで
涼真くんの隣にそっと寄る

 

肩が微かに触れた瞬間
空気が妙に重くなる

 

「だいたいこれぐらいだな」

 

「……近いね」

 

「は?普通だろ、恋人同士なんだから」

 

何気ない一言なのに
胸の奥がくすぐったくなる

 

 

私は台本をめくり直した

 

『……ねえ、今日はこのままここにいていい?』

 

ゆっくりセリフを読み始める

 

『……どうした?』

 

涼真くんの声は
少し低めに落ちた

 

『なんとなく…もう少しこうしてたくて…』
 

自分で言いながら顔が熱くなる

 

『甘えたいの?』
 

少しだけ茶化すような声だった

 

『……違うもん』
 

自然と視線をそらして
膝の上の手をぎゅっと握った

 

「……ふーん』
 

涼真くんが軽く体を寄せる

 

肩と肩がぴったり当たった

 

『俺は全然いいけどな』
 

その低くて柔らかい声が
耳元に近づく

 

──やば…なんか…近い…

 

息がかかる距離に
喉がコクリと鳴った

 

でも
涼真くんは何事もない顔で台本を指差す

 

「ここから、顔を見ながら台詞な」

 

「……えっ」

 

「だってリアルなシーンだろ?こういう目線が一番難しいんだから練習しとけ」

 

「……わ、わかった…」

 

私が顔を上げると
涼真くんの綺麗な目が真正面から合った

 

呼吸が一瞬止まる

 

目線も声も
ふたりとも微妙に揺れてるのが分かってた

 

その瞬間――
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