練習しよっか ―キミとは演技じゃいられない―
見学
「そういえば…恋愛もの撮ってるって?
ちょっと苦戦してるって聞いたけど」
「えぇ?……なんで知ってるの?」
「そりゃあ現場に噂はすぐ回るからな」
涼真くんは軽く笑いながら
ポケットに手を入れたまま
ゆるく私を見つめてくる
「演技の幅が広い分だけ、難しいよな。特に恋愛ものは」
「うん…頭ではわかってるつもりなんだけど」
私は素直に打ち明けた
「経験がないから
リアルな表情とか仕草がイメージだけじゃ限界で…」
涼真くんは少しだけ考えるように目を伏せて
ふっと息を吐いた
「……実はさ、俺もさ、
今やってるドラマが恋愛ものなんだよ」
「え?そうなの?」
「そそ!んで明日も丁度、その撮影が入ってる」
涼真くんの視線が
静かに私の目を捉える
「奈々、もしよかったら見学に来るか?」
「えっ…でも、いいの?」
「現場の許可は通してやるから。少しくらいは勉強になると思うぞ」
思わぬ提案に
胸がドクンと鳴った
「……うん。行ってみたい」
自然と返事をしてた
──翌日
初めて入る大型スタジオ
私は少し緊張しながらセットの外で立っていた
モニターの中には
涼真くんがいた
相手役の女優さんを優しく抱き寄せ
繊細な目線で
ふっと距離を詰める
指先ひとつの動きも
視線の揺らぎも
全部が自然で…
「……すごい…」
私は思わず小さく呟いてた
役としてじゃなく
本当に恋してるみたいだった…
あの余裕
距離感
空気の作り方
__私にはまだ
全然できてない
悔しいくらいに
涼真くんの演技に圧倒されてた
__でも同時に
「私も……頑張ろう」
ギュッと拳を握りしめた
__このままじゃダメだって
強く思えた機会でもあった