練習しよっか ―キミとは演技じゃいられない―

見学



「そういえば…恋愛もの撮ってるって?
ちょっと苦戦してるって聞いたけど」

 

「えぇ?……なんで知ってるの?」

 

「そりゃあ現場に噂はすぐ回るからな」

 

涼真くんは軽く笑いながら
ポケットに手を入れたまま
ゆるく私を見つめてくる

 

「演技の幅が広い分だけ、難しいよな。特に恋愛ものは」

 

「うん…頭ではわかってるつもりなんだけど」

 

私は素直に打ち明けた

 

「経験がないから
リアルな表情とか仕草がイメージだけじゃ限界で…」

 

涼真くんは少しだけ考えるように目を伏せて
ふっと息を吐いた

 

「……実はさ、俺もさ、
今やってるドラマが恋愛ものなんだよ」

 

「え?そうなの?」

 

「そそ!んで明日も丁度、その撮影が入ってる」

 

涼真くんの視線が
静かに私の目を捉える

 

「奈々、もしよかったら見学に来るか?」

 

「えっ…でも、いいの?」

 

「現場の許可は通してやるから。少しくらいは勉強になると思うぞ」

 

思わぬ提案に
胸がドクンと鳴った

 

「……うん。行ってみたい」

 

自然と返事をしてた

 

 

──翌日

 

 

初めて入る大型スタジオ

私は少し緊張しながらセットの外で立っていた

 

モニターの中には

涼真くんがいた

 

相手役の女優さんを優しく抱き寄せ
繊細な目線で
ふっと距離を詰める

 

指先ひとつの動きも

視線の揺らぎも

全部が自然で…

 

「……すごい…」

 

私は思わず小さく呟いてた

 

役としてじゃなく
本当に恋してるみたいだった…

 

あの余裕

距離感

空気の作り方

 

__私にはまだ
全然できてない

 


悔しいくらいに
涼真くんの演技に圧倒されてた

 

__でも同時に

 

「私も……頑張ろう」

 

ギュッと拳を握りしめた

 

__このままじゃダメだって

強く思えた機会でもあった

 

 
< 3 / 39 >

この作品をシェア

pagetop