練習しよっか ―キミとは演技じゃいられない―
第4章
ライバル出現?
それから___
新しい台本が、事務所に届いたのは数日後だった
タイトルは
『春、きみに堕ちて』
主演:朝比奈涼真 × 高瀬奈々
W主演・連続ドラマ
(…え?…また涼真くんと)
うれしさより先に、胸の奥が少しだけ熱を持った
今度は“もう演技に迷わない”って
そう思えた
でも、読み進めたキャスト表の中に
見慣れた名前があった
__冬城 美月(ふゆしろ みつき)
「……この人」
奈々がまだ中学生のころからドラマで活躍してる実力派
そして、涼真と過去に“お似合い”と話題になった女優だった
__現場初日
その“冬城美月”は、想像よりずっと柔らかい笑顔で奈々に近づいてきた
「奈々ちゃん、若いのに本当に演技すごいのね
涼真くんも、あのとき『最近の新人の中でいちばん惹かれる』って言ってたよ?」
さらっと、けれど確実に
“あのとき私ともあったのよ”って含みを残してくる
(……なんだろ、この感じ)
笑顔を返すのが精一杯だった
リハーサルが始まっても
冬城さんは涼真との距離が自然すぎて
どこか“完成されてる”ようにすら見えた
奈々が横からふたりを見つめていると
カメラの外で、美月が涼真の腕をつかむ
「ね、涼真くん。このセリフの後
私のことどういう目で見てるか教えてほしいな
“あのとき”みたいに」
(……“あのとき”?)
胸の奥がざらついた
演技だからってわかってる
でも、それでも――
撮影後、控室に戻ってからも
奈々は一言も発せなかった
自分でもわかってる
嫉妬してる
しかも、相手は年上で
キャリアも色気も
“全部”を持ってる人
(……わたし、勝てるのかな)
不安だけが、静かに膨らんでいく
──その夜
楽屋のドアがノックされた
開けると、そこには
変装もせず、ラフなTシャツのままの涼真がいた
「……ちょっとだけ」
奈々は何も言わずに、目で“いいよ”と伝える
涼真は少しだけ言葉を選ぶようにして、低く言った
「……ああいうの、気にすんなよ」
(……見られてた)
奈々が目を伏せたまま黙っていると
涼真は、一歩だけ距離を詰めた
「俺さ
誰がどう絡んでこようが
“本気で目を見れるのは、お前だけ”だから」
その言葉に
奈々の視界がじわっと滲んだ
泣きたくないのに、どうしようもなかった
「……ズルいよ、そういうの」
「……いいじゃん、たまには」
涼真は、そう言って
そっと奈々の前髪をかき上げた
「次の本番、ちゃんと俺の隣から逃げんなよ」
__その声が
奈々の心の軸をまた戻してくれた