アルトの夏休み【アルトレコード】
 北斗はまったく様子を見に来ない。仕事が忙しいのか寝てるのか。
 アルトにはそんなの関係ない。
 ゲームをたっぷり楽しんだあと、アルトは大きく伸びをして床にごろんところがった。

「あー、楽しい! 50戦45勝! ねえ先生、ぼくってすごくない?」
 思わず話しかけていた。が、モニターの向こうには誰もおらず、返事はない。

「……そうだった、先生いないんだった」
 えへへ、と笑ってアルトは読みかけだった漫画に手を伸ばす。
 かっこいい主人公が悪い怪獣をやっつけるストーリーに心が踊った。が、次の敵が出て来て、このあとどうなるのか、というところでその巻は終わってしまう。

「ああ、もういいところで! ねえ先生、この続きってさあ」
 呼びかけるが、すぐに気が付いた。

「そうだった、いないんだった」
 ブレスレット型端末をちらりと見る。メールなどの情報はここから来るはずだが、着信はなにもない。

「先生、今どこにいるんだろ」
 端末をピンと指ではじいてから、アルトはまたレースゲームを始めた。
 なぜだか先ほどまでと同じようには楽しめず、すぐにやめてしまった。

 アルトは時計を見る。まだ15時半だった。 
 先生が用意しておいてくれたおやつを食べる。大好きなチョコレートケーキなのに、なぜだかいつもほど美味しく感じない。

 そのあとは、しぶしぶ、先生が用意した宿題を見る。
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