† of Holly~聖の契約
「わたくしにとって異常であるこの土地で、貴方はいったいわたくしとここと、どちらを異常と思われますか」

「そうだな」

と、彼は一拍を置いた。

「俺にしてみればここも、お前も、俺すらも……なにもかも異常だ」

「まさか」

自分までも正常という範疇から疎外して、どうするのだろう。

少なくとも最後には、自分ひとりだけでも正常であると信じなければ、世界は破綻してしまう。

彼は、その破綻した世界で正常にいられるというのだろうか。

「俺は異常なのだ。正常であるかどうかはともらかく、通常ではない」

「言葉の意味がわかりませぬが。要は、なにをおっしゃりたいのですか」

「なに、些細なことよ」

男が一歩、引いた。

私の腕は、やはり満足な力を込めることも叶わない。間たをに距離が開いてしまう。

いつの間にやら彼は、私から手拭いを取っていた。

懐へ、薄汚れた布が消える。

「異常は正常ではない。正常でないのなら、異常を排除しようと思うのだ」

おかしなことを言うと思った。

彼は、自ら矛盾を生んだのだ。
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