【改訂版】満月の誘惑
目を閉じて肩を下ろす荘司さん。
お茶だけだけど、ホッとしてもらえて良かった。
私もホッとしたと同時に、丹前から見え隠れする傷が目に入り、気が引き締まった。
荘司さんの顔と体の傷は、戦争の古傷なんだろうか。私よりだいぶ上だと思わせる風格。
そうなると、戦争時分は主戦力だったことになる。
今ここに居るということは、戦争に行かなかったのか、生き残って帰って来られたのか…。
「荘司さん。一つお聞きしてもよろしいですか?」
「あぁ、何だ」
「その傷、名誉の負傷、でしょうか…。それとも、」
何かに引っ掻かれたような傷と、擦り傷が大きく付いている左頬を、自分の頬で示す。
すると、聞かれたくないとでも言うような、迷惑そうな表情を見せる。
「これは…。何でもない。外で昔走り回っていた時に、転けてできた傷だ」
「だいぶ酷く転けられたんですね」
「石がゴロゴロとあるから。それに引っかかったんだ」
「そうでしたか。大変でしたね」
絶対違うと分かる。荘司さんは嘘をついている。
簡単に人には言えない秘密でも、あるんだろうか。戦争で、思い出したくないことがあるとか。
平然を装って、何もないように振る舞っているけど…。
「そういえば、柚葉に言っておきたいことがある」
「はい」
話題を変えられた。余程言いたくないことなんだな。
嫌なことを無理に言って欲しいとは言わない。そっとしておこうと、荘司さんの言っておきたいことに耳を傾ける。