先輩と僕。
僕には好きな人が居る。
―――それは、絶対に好きになってはいけない人。
「遠藤~、お前まぁた倉本女史に怒られてたよな。大丈夫かぁ?」
昼の休憩時間、社員食堂でたまたま一緒になった、同僚二人から声を掛けられ僕は目だけを上げた。休憩時間は残り十分程だ。
倉本女史と言うのは僕の直属の上司で、僕が働く広告代理店の営業ウーマンでもある。
美人で仕事ができて、クールで。
「でもあれだけ美人でももったいないよな。クールって言やぁ聞こえはいいけど、冷た過ぎ、ついでに言うとキツ過ぎ」
「あの人のパワハラのせいで何人も同期たちが辞めてったよな。お前で3…4人目?」
パワハラ??まぁ言い方キツイし、厳しいけど僕はそれ程ダメージを受けてはいない。
何故なら僕が好きな人は倉本先輩なんだから。僕のたった三歳上の27際なのに営業部のエースにしてすでに主任を任されている。
「出世街道まっしぐら、だよな。でも、あれで結婚してるって言うから驚き」
「いくら美人でもあれじゃ俺も家に帰り辛ぇわ」
そうなのだ。僕の好きな倉本先輩は結婚している。細くてきれいな左手薬指にはまっている、ダイヤが散りばめられたプラチナのリング。
あれが憎らしくて仕方がない。
けど倉本先輩を奥さんにするぐらいの伴侶なら、彼女以上のスペックがあるに違いない。だって今の僕には逆立ちしたってあんなきれいで豪華な指輪をプレゼントすることすらできない。
ついでに言うと倉本先輩に与えられた仕事もまともにこなせない。言わばお荷物状態だ。
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