星屑の続きを、君と

第3話 君をひとりにさせない

 金曜の夜、池袋のシネコンは、平日とは思えないほどの賑わいだった。
 ネオンに照らされた映画館の入口で、遥は落ち着かない気持ちで立ち尽くしていた。

「──久しぶりのデートって感じだね」

 後ろから声がして、振り向けば悠真が立っていた。
 黒のパーカーにデニム、いたってシンプルなコーディネート。
 それなのに、モデルのように着こなしていて、思わずどきりとする。

「デートって言われると緊張する」

「じゃあ、『再会記念行事』ってことで」

「えー、それもなんか微妙かも」

 笑い合いながら、ふたりは映画館へ入っていった。

 上映されたのは『星屑レボルシオン RE:GENESIS』。
 レボルとシオンの出会いから、記憶喪失、そして再会と覚醒までを描いた総集編で、新規カットもふんだんに盛り込まれていた。

 レボルの叫びがスクリーンから響く。

 ──「君をひとりにさせない。宇宙中探して、見つける。絶対にだ」

 その言葉に、遥の胸がきゅっと締めつけられた。
 隣を見ると、悠真がまっすぐ前を見つめている。
 あの頃も、彼はこうやって、この漫画に夢中だった。

 そして、エンディング。
 記憶を取り戻したシオンが、レボルに向かって微笑む。

 ──「レボルの眼は、星屑みたいに光ってる。綺麗」

 遥は、ほんの少しだけ涙ぐんでいた。

 

 映画のあと、駅までの帰り道は、自然とあの頃の話になった。

「懐かしかったね。変わってなかった」

「うん。あんなにボロ泣きするとは思わなかったけど」

「泣いてたの、バレてた?」

「ばっちり」

「最悪……」

「でもさ、いいと思う。感情、ちゃんと動いてるってことだから」

 悠真はそう言って、何気なくポケットに手を入れた。

「遥、さ。昔より、ちょっと雰囲気やわらかくなったよね」

「えっ、そう?」

「前は頭良くて、生徒会長ってかんじで。正論しか言わない感じだった」

「……それ、褒めてる?」

「うん、もちろん。でも、今の遥も、すごくいいと思うよ」

 ──なぜ、そんなふうに言えるんだろう。

(今の私なんて、全然「いい」わけないのに)

 遥のなかに、ぐらりと何かが傾いた。

「……悠真はさ、いいよね」

「え?」

「ちゃんと大学行って、いい会社入って、評価されて……。こうやって、大人になっても、うまくいってて。私なんて、いまだにバイトだよ。将来なんて全然見えない。……悠真に、私の気持ちなんて分かんないよ」

 そう言ってしまってから、遥の胸はすっと冷たくなった。
 こんなの、ただの八つ当たりだ。

 悠真はなにも言わなかった。ただ、小さくうなずいて、静かに目を伏せた。

 そして──「そっか」とだけ、言った。

 そのまま、駅の前で別れた。
 息をしても、肺には泥のような空気が沈殿していくだけだった。

 
 帰宅して、バッグを置いた瞬間、涙が溢れた。

(なんで、あんなこと言ったんだろう……)

 ただ楽しかっただけだったのに。ほんの少し、羨ましかっただけだったのに。
 傷つけたくて言ったわけじゃないのに。

 スマホを開いて、メッセージを打ちかけて──やめた。

 彼からの返信は、きっともう来ない。そう思っていた。

 ──なのに、その翌日。
 遥のスマホに、悠真からの長文メッセージが届いた。
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