深夜13時の夜行バス
思わずそこに目を向けると、私の背後から、最初に塩原とあの乗車券を手にした時と同じような……ううん…今度はもっともっとたちの悪い悪寒が背筋を電撃の様に走り抜けた。
『あなたのお陰よ』
聞いた覚えのある声に、私は振り向くことすらできなかった。黒い着物の袂が私の脇の辺りでゆらゆらと揺れている。
何で――――
葵さん
私の視線の先にある塩原は首元を掻きむしり、目を開いて必死に酸素を求めるように口をぱくぱくとさせている。
異常だ。
「先輩っ!!先輩!大丈夫ですか!」弓削くんが今にも倒れそうな塩原を支え、揺すっている。
塩原に何かが起きている。今すぐ彼の元に駆けつけたい。そう思っているのに一歩も動けない。
葵さんの体温のない冷たい手が私の両肩にそっと置かれた。ぞっとするような冷たい手。
「塩原に―――何したの……?」
恐る恐る葵さんに聞くと
『私は何も。ただ、あの子―――』葵さんは経理部の……内海さんを指さしていた。内海さんは遠目から見ても分かる程真っ青な顔をして口元に手をやりぶるぶると震えていた。
塩原は宙に手を這わせ、しかし何かを掴むこともなく弓削くんの支えも虚しくその場に崩れ落ちる。
周りが騒然となった。
塩原っ!!!
「もう一度聞くわ!あなたは何をしたの!?」
今すぐに塩原に駆け寄りたいのに、足が言うことを聞かない。私は葵さんにそう聞くのが精一杯だ。
『私は何も。ただ、あの子は知っていたのね。彼が
”蕎麦アレルギー”だったってこと』
そう―――
塩原は重度の蕎麦アレルギーだ。そのことを知ってるのは私たち同期四人だけ。