すべての花へそして君へ①
借りられる範囲が狭すぎだろ
「チカくん。もしかして背伸びた?」
「あ?」
なんかおかしいなとは思った。さっきの違和感はそういうことだったのか。
「多分ちょっと伸びてる! すごい! どれだけ伸びるかな?」
「ツバサ越せたら万々歳だな」
「えー……」
「おい。さっきの喜びはどこ行ったんだよ」
「チカくんは小っちゃいままがいい」
「オレの気持ちもわかってくれ」
「わたしの気持ちもわかってくれ」
「知るか、んなもん」
「酷いっ」
「お前なあ……」
両手で顔を隠してそんなことを言ったかと思ったら、「パア」ってアホ面しやがったから、バシンッと頭を殴っておいた。
「いたーい!」
「おかしい頭もこれでちっとはよくなるだろ」
「おお! そうか!」
(全然治ってなかったわ……)
これから、こんなやりとりをずっとするのかと思うと、つらくもあるけれど。やっぱり、嬉しくもある。何回も何回も。これからずっと、こうする度に思うんだろう。
「アオイ? オレ、お前を好きになれて、ほんとよかった」
「そう言ってもらえて、すっごく嬉しいっ」
「お前がつらい時、もっとちゃんとわかってやれてたらよかったなって思うけど。それはもう、こうして帰ってきてくれたから、なんでもいいわ」
「ちかくん」
「だから」と。オレが一番得意なヤツで、言ってやるんだ。
「おかえり。アオイ。お前が笑ってくれてて、すっげえ嬉しい」
「わたしも、チカくんのその笑顔大好きだから、また見られてすごく嬉しい! ……改めてただいま、チカくんっ。助けてくれて、本当にありがとう!」
同じような顔で笑うこいつの、そう言ってくれるこいつの。
「愛想尽かしたらオレが面倒見てやるよ」
「尽かさないよ!!」
隣じゃなくてもいい。幸せそうな笑顔を見ていたいって。いつまでも、見ていたいって。……そう、思った。
「……そういやお前、まだ寝てなかったんだな」
「うん。……ちょっと、ね」
もうすぐ時間は2時になりそうだった。それでもまだ、どうやらこいつは寝ないらしい。
「……まだ、行くとこあんだな」
「……うん」
律儀な奴だから。こんなこと、わざわざしなくてもいいってのに。
「言ったでしょ? 好きがわかったら、ちゃんと言葉にして伝えるんだって」
「……そうだったな」
ハッキリ言われると、やっぱりつらい。でもまあ、よかったとも思うけどな。
「んじゃ、頑張ってこい。なんならついて行ってやってもいいけど?」
「ううん。大丈夫。……ありがとね」
さっきの笑顔ではない。どこかつらそうな顔で笑いながら、アオイは静まり返る廊下を歩いて行った。