すべての花へそして君へ②

 彼がどうやってそれを手に入れたのかはわからないけれど。それをわざわざ探してくれた。見つけてくれた。こうやって再びわたしに送ってくれた。
 あれだけ警戒心の強い魔王様だったのに。今ではすっかりやさしいお兄さんみたいだ。


「だからちかくんに。大丈夫だよって、言ってあげて……?」

「え。ヤダよ。慌ててるのが面白いんじゃん」

「え……。だ、だったら。隠してるのに飽きたらでいいから」

「さすがにかわいそうだと思い始めたら言っておくよ」


 そんなことを言う彼に「ははっ」と小さく笑えたから、さっきよりはだいぶマシになったんだと思う。痛みも、今は少し落ち着いている。
 彼もそれがわかったんだろう。安心したように眉尻を下げて笑っていた。


「あ、れ? ひなたくん……?」

「ん?」

「あの、わたしの部屋、あっち……だよ?」


 けれど、いつの間にか女子部屋を通り過ぎていたことに気が付く。ツンツンと浴衣を軽く引っ張りながら、部屋の方を指差しながら聞いてみるけど……。


「いや、さすがにあの部屋には帰せない」


 と。それから。


「今大丈夫なら、ちょっと部屋覗いてみる?」


 よくわからなくなったけれど、取り敢えず頷いておいた。


 ――――――…………
 ――――……


「……おう。なんてこったい」

「ね? だから言ったじゃん」


 そこには、大暴れしているキサちゃんの姿……否。大暴れしている二人の姿があった。


「お菓子がー……。飲み物があー……」


 広げたままだったせいで、かわいそうにぶちまけられていた。幸い、ペットボトルの口はちゃんと閉まっていたみたいだけど。


「いいよ。取り敢えず今、あの部屋の中にでも入ろうものならあおいが危ない」


 だから部屋には帰らずにいたのかと。とってもわかり易い説明に、理解するのも早かった。


「あれ? でも去年もキサちゃん一緒だったよ……?」

「器用なことに、ベッドでは落ちないんだよ。去年簡易のベッドじゃなかった? あれキサのせい」


 おう。なんてこったい。


「でも、……まさかユズもここまで大暴れするとは思わなかったけどね」

「ははっ。元気なのはとってもいいことだ」

「……うん。あおいも早く元気になろうね? じゃないと明日海行けないよ」

「は~い。ごめんなさーい」


「めっ。でしょ?」と怒った顔が、とっても可愛くて鼻血が出そうになったのだけは黙っておこう。
 とか思ったのがバレてしまったのか、もう一度同じ言葉を耳元で囁かれて、本気で出そうになった。なんとか耐えたけど。じゃあ、今どこへ向かっているのだろう……?


「まあ、オレの部屋が一人部屋なら連れ込んでたんだけどね」

「え」


 ひょいっと抱え直してくれた彼は。


「さーて、どこでしょう」


 その声も表情もすごくやさしかったけど、意地悪さんは着くまで教えてくれなかった。


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