すべての花へそして君へ②
「……んーでも、それとこれとがどう関係してくるの?」
それを気にしたところで、きっと彼から答えを聞けることはなさそうだ。そう思って再びヒントの解読へ。大文字で表されているだけあって、きっと何かの頭文字なのだろうけど……。
【L】というのはその家の名前なのだろうか。だとしたら、確実に日本の家系ではなさそうだ。それとも、それぞれの家系を英語で表してる? でも、そんなのわからないよね。言われてもわからないよ。
(まさか、こんなところでパーティーの欠席を悔いるとは……)
そういう場所では、誰かを何かに見立てて呼ぶことが稀にある。
わたしでも知っているところと言えば、たとえば海棠は【赤薔薇】とか。有栖川は【白百合】とか。……ん? 白百合?
「もしかしなくても【Lily】?」
不確実だけれど結論を出したわたしは、ねえねえと彼の白衣を引っ張ろうとした。
「……タカト?」
けれど、彼は遠くの方を見つめていて……。さっきとは違った意味で、彼の袖をつんつんと引っ張ってみる。
「それで合ってるよ。多分、その先に考えてることも」
「ひとまず、見当がついたところへ案内するね」こちらを見ず、それだけ言って彼はくるりと手を翻し、逆にわたしの袖を掴んでくる。
「……このまま、振り向かずについてきて」
そしてすっと距離を縮め、耳元でそう囁いたかと思ったらスタスタと歩き始めてしまった。慌ててわたしも、彼のあとを追う。
「……古い家系なんかは未だにこだってるみたいなんだけどね」
追いついたわたしに、彼は【三つの百合の花】の話をしてくれた。
要は、百合ヶ丘で三本の指に入るということ。桜にあるジンクスのようなもので、その三本指に入ることができれば、その一族は未来永劫栄えることを約束される……と。
「それで、ここ最近はある三つの家が【百合の名】で呼ばれることを許されようとしていた」
そこまで言って彼は足を止め、タブレットから花山市一帯の地図を起ち上げる。すぐに起ち上がったそれに、取り出たペンで【その家】を丸で囲った。
一つ目、……二つ目まではよかった。けれど、三つ目のそれを、わたしは俄には信じられなかった。
わたしの動揺に気付かない振りをしているのか。彼は続けてその三つの家を線で囲み、三角形を作る。
「ここも、一応はうちの【コウナイ】だからね」
そして、その三角形で囲まれた中央に、赤い×印をつけた。【構内】――百合ヶ丘敷地内の、とある一カ所を。
「取り敢えず、ここに行ってみよっか」