一匹オオカミ君と赤ずきんちゃん
スラリと伸びた手足と透明感あふれる白い肌。
流行のメイクで彩られた愛らしい双眸(そうぼう)と、明るく染めた(つや)やかな長い髪。

欠点の無いパーフェクトな容姿を前に、緊張で体が硬直した。

「は、はい、何でしょう?」
「愛原さんって、星崎君と同じ中学だったんでしょ? 仲良かったの?」
「え?」

クラスメイトの唐突な質問に、頭の中が混乱する。

私と星崎君が同じ中学校!?
あんな人気者、同級生にいたかな?

記憶に新しい中学時代を思い返してみるが、大きなイベント以外何も思い出せなかった。
そもそも不登校気味だったから、同級生どころか隣の席の子すら覚えていない。
 
ごめん、星崎君、あとで卒アル確認するね……。
 
何の実りも無かった中学時代を思い出して気を落としていると、綾瀬さんの苛ついた舌打ちが聞こえた。

「ちょっと愛原さん、聞いてる?」
「あ、ごめん、えっと、星崎君とは話した事なくて」
「なんだ、そうなの……」

綾瀬さんは急に穏やかな口調になり、安堵の表情で去って行く。
その後ろ姿は嬉しそうに弾んでいた。

何か、誤解をされていたようだ。
どうして私なんかの事を気にするのだろう。

ご機嫌で去って行った綾瀬さんは、一軍女子の輪に加わると、そっと私を一瞥する。
 
「星崎君とは話した事無いそうよ」

小声で言ったつもりだろうけれど、綾瀬さんの声は通りが良く、すんなりと私の耳に届いた。
少し距離をとってみたものの、一軍女子達は私に聞こえるように大声で話し始める。
 
「ほらね、ありえないって言ったでしょ。あんな地味な子を相手にする訳ないって」
「帽子は派手だけどね、あはは」

終業を知らせるチャイムすらかき消してしまう、嘲るような声と笑い。
胸の奥がチリチリした。

入学してからもうすぐ半年。
平穏無事に卒業するのが目標だったのに、昨日から心が騒がしい。

分かってる。
このままじゃダメだって事。

でも、どうすれば――

答えなんて見つからない。

何も考えたくない。

私は逃げるように体育館を後にした。



**********
**********
< 9 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop