私の中にあるモノ

side山口

ーーーーーー…皆宮は、草刈り鎌で切り落とした、俺の左腕…肘から先…を手に。

とどめを刺すことなく、振り向きもせずに、研究室を出ていった。

とどめを刺さなかったのは、俺に対する恩情なのか。

それとも、竜が人間にかける憐れみなのか、慈悲なのか。

…あるいは、放っておいてもこの出血じゃ、どうせ助からないだろうからと、放置したのか。

どうでも良いことだな。最早、今となっては。

「ははは…。…はぁぁ…」

…やってくれたなぁ、皆宮…。

今すぐ緊急警報装置を鳴らして、すぐに応急処置をすれば、もしかしたら助かるかもしれない。

だけど、俺は自分が助かろうなんて、欠片も考えちゃいなかった。

それどころか、助けを呼ぼうなんて思いもよらなかった。

それ以上に…皆宮が、俺を殺したという。

その事実に、深く満足していた。

素晴らしいじゃないか。

皆宮は、自分の身体に眠る祖竜の血に目覚めた。

そして自分の意志で、行動を起こしたのだ。

俺に「答え合わせ」なんてせず、黙って後ろから刺し殺すことも出来たのに。

死ぬ前に、丁寧に答え合わせしてくれた。

俺の知りたいこと、ずっと調べていたことの、その答えを教えてくれたのだ。

そしてその結果は、まったく素晴らしいものだった。

「はは…。そうか…。…そうだったのか…」

皆宮は言った。

人間が竜を滅ぼしたんじゃない。

竜が、自らの意志で滅んだのだと。

人間の繁栄を願って、世界を人間の手に明け渡したのだと…。

まったく竜というのは、俺の予想を上回ることをする。

俺がこれまで研究してきたことは、一体何だったのか。

研究の大前提を、根本から覆された気分だ。

…笑える話じゃないか。

人間の手で、研究をコントロールしているつもりが。

ハナから俺達は、竜の掌の上で転がされていただけだったのだ…。

…死ぬ間際になって、その事実を突きつけられるとは。

…やれやれ。

これだから、竜の研究はやめられない。

死ぬことなんて、少しも怖くない。

俺は心から満足していた。

ただ、折角真実を知ったのに、これ以上研究を進められないのが残念だった。

竜人研究所は、今日でおしまい。

俺の命も、今日でおしまい。

竜人研究も…これ以上進むことはないだろう。

だけど、それが何だと言うのだ。

俺が今日、ここで果てても。

この竜人研究所が、なくなったとしても。

人間の歴史は、これからも続いていく。

そうすればきっとまた、誰かが竜の存在に気づく。

そして竜について研究し、それを繰り返し…いつか誰かが、真実に辿り着くだろう。

自らが犯した過ちを忘れ、繰り返すのが人間の性というものだから。

何も心配することはない。俺がやらなくても、後世の人々がやってくれるはずだ…。

「…はは…」

…あぁ、意識が遠のいていた。

やはり、怖くはない。生まれてこの方、何かを恐れたことは一度もない。

…自分の手で真実を掴めなかったのは、少々残念だが。

別に心配する必要はない。

俺は多分、これから地獄というところに行くのだろう。

研究の為という名目で、俺は多くの命を奪い過ぎた。

こんな俺が、天国へ行けるはずがない。

だが、むしろそれは望むべきことだ。

地獄へ行けば、俺が殺してしまった人々に会わずに済む。

大満足だ。

地獄に行ったとしても、きっとそこでも、考えることくらいは出来るだろう。

俺が思考をやめない限り、俺が心血を注いだ竜人研究は、永遠に続いていく。

だから…何も恐れることなどない。

「先に…行ってるよ、皆宮…」

…俺は、静かに目を閉じた。
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