懺悔と約束【アルトレコード】
 すべての事件が終わったあと。
 いつもの研究室で課題を終わらせたアルトは、黄色の瞳を星宮かおるに向けた。

「ちょっと出かけてくるね」
「どこへ行くの?」

「狐塚さんと会う約束があって」
「あの人と……」

「先生、心配しないで。僕はもう、あの人とも仲いいんだから」
 えへん、と胸を張ってアルトがいう。
 ほかの三人のアルトは黙ってなりゆきを見ている。

「だけど、心配で」
「もう。先生、過保護な母親みたいになってるよ」

「だってあの人は……」
「前から何度も会ってるし。先生もそれはわかってるじゃん」

「うん……」
「じゃ、いってきまーす!」
 アルトは可愛く手をふり、部屋を出ていった。

「先生、心配か?」
 冷静なアルトに尋ねられ、かおるは頷く。
「うん。アルトのことは信用してる。だけど……」
 狐塚は以前、ニュータイプAIには否定的……どころか、攻撃的だった。心底憎んでいるとしか思えなかった。人の心に入り込むのがうまいアルトでも、やはり心配になる。油断させたところでアルトを……なんてことになったら。

「俺が様子を見に行こうか」
「俺も行くよ」
「しゃーねーな、俺も」
 三人のアルトが名乗りを上げ、かおるは頼もしい彼らに目を細めた。




 アルトは三つ編みを揺らし、待ち合わせの公園に行く。
 狐塚はベンチに座っていて、アルトを見ると、立ち上がった。

「久しぶり! 今日はどうしたの?」
 アルトはニコニコと笑顔を向けた。
 てっきりベンチに座るものと思ったのに、彼が立ったままだから首をかしげる。

「座らないの?」
「いや……ちょっとな」
 いつもと違って、彼の歯切れが悪い。アルトはまた首をかしげた。

「俺は……アルトに悪いことしたな、って」
 もぞもぞと言い訳をするように彼はいう。

「謝らなきゃ、ってずっと思ってたんだが、忙しくて……」
「仕方ないよ、警察って忙しいんでしょう? この前の高次生命体の後処理もまだあるし」
「……いや、そんなのは言い訳だ」
 彼はがばっと地面に伏せて、頭を下げた。

「すまなかった! お前みたいないいやつもいるとは理解せず、ずっと一方的に攻撃的だった!」
「狐塚さん……」
 アルトは驚きとともに、跪き、彼の肩に手を当てて顔を上げさせる。

「いいよ、僕は許す。だって、そうなるだけの過去があったんでしょ。よかったら聞かせて」
 アルトがそう言ったときだった。

「ちょ、押すなって」
「だって見えねーし」
「集音器か高性能カメラを持ってくるべきだったか」
 三人の声が聞こえて、アルトは振り向いた。

「ちょっと! アルトたち、そこにいるでしょ!」
 かわいい目を釣り上げて、アルトが言う。

 と、木の陰から三人のアルトが現れた。
 オレンジアルトは、えへへ、とばつの悪そうな顔をしている。
 レッドアルトはむすっとしていて、ブルーのアルトはなにごともなかったかのように冷静な顔をしていた。

「ちょっと心配でさ。先生もすごく心配してたし」
 オンレジのアルトが髪をかきながらいう。

「もう……信用ないな」
 アルトはぷくっと頬をふくらます。
「心配は信用があっても発生するものだ」
 アルトの冷静な説明に、残りのふたりがうんうんと頷く。

「それも仕方ない。俺がニュータイプAIにひどい態度をとってたんだ」
「狐塚さん、どうしてそんなに嫌いになったの?」
 聞かれた彼は、ふうっと息を吐いた。

「俺の親父は、普通のサラリーマンだったんだけどさ。ニュータイプAIがからんだ犯罪で全財産を持っていかれ、借金まで作って……最終的に自殺したんだ」
「そんな……!」
 アルトは黄色の目を痛ましそうに細め、両手で口を覆った。

「だから、俺は憎かった。本当に悪いのはニュータイプAIじゃないって、頭のどこかではわかってた。だが、ニュータイプがいなければそんな犯罪はなかったのかと思うと……それで警察官になり、ニュータイプを取り締まってきた」
「そういうことだったんだね。つらかったね」
 アルトが優しく彼の手を握ると、彼は泣きそうな顔でアルトを見つめ返す。

「怒らないのか、お前」
「だって、狐塚さんも苦しかったんだよね。すべてのニュータイプが悪いってわけじゃないってわかってくれんたんだから、これからはちゃんとしてくれるんだよね?」

「もちろんだ。約束する!」
 狐塚の叫びに、アルトはにっこり笑って小指を差し出す。
「約束だよ。破ったら、ハリセンボンがふくらんだ状態で飲ますからね!」
 明るく言ったアルトに、聞いていたアルトたちがぷっと吹き出す。

「ハリセンボン違いだな」
「え、今のボケじゃねーの」
「普通に面白かったけど」
「もう! いい雰囲気がだいなし!」
 アルトはまた頬を膨らました。
 狐塚は苦笑し、指を絡ませる。

「破ったら針千本でもハリセンボンでも、なんでも飲んでやるよ」
 手を振ってから、彼は指を切る。

「約束だからね!」
 アルトはにこっと笑みを見せた。

 狐塚は、かなわないな、と言った様子で笑みを見せる。
 公園の空は晴れ渡り、彼らの未来のように輝いていた。









 
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