君に花を贈る
Day8「足跡」
「……どんな顔して会えばいいんだろ……」
私は須藤造園の裏口の前で立ち尽くしていた。
この前納品に来たとき、実は熱を出してて……藤乃さんが、家まで運んでくれたらしい。
あとで母さんから聞いて、恥ずかしさで消えてしまいたくなった。
しかも部屋に入ったって……。藤乃さんにもらったドライフラワーとか目録、絶対見られてるよね……。
でも、それはそれ。
今日はちゃんと納品しなきゃ……。台車の花を、思わずもう一度チェックする。
今度こそ扉をノックしようと、右手を振り上げた。
「花音ちゃんだ。熱下がった?」
「わ……っ!」
「驚かせちゃった? ごめんね」
手を振り上げたまま振り返ると、ニコニコと笑顔で見上げる葵さんがいた。
「びっくりしました……」
「お花持ってきたんだよね」
葵さんは事もなげに扉を開ける。ちょっと待って、心の準備が……!
「こんにちはー、花音ちゃん、来てますよー」
「あら、こんにちは」
出迎えてくれたのは須藤さんの奥さんだった。ちょっと拍子抜け。
納品書をお渡しして、台車を運び込む。
「葵ちゃん、バケツ用意してね。花音ちゃん、これ、藤乃から」
「あ、ありがとうございます。先日は、本当にすみませんでした」
「気にしないで。元気になったのなら、良かったわ」
渡されたのはペットボトルのお茶と塩飴だった。……わざわざ用意しておいてくれたんだ。
奥さんが受領書にサインして、私に手渡してくれた。
藤乃さんの字に似てるけど、もう少しやわらかくて、女性らしい感じがする。
「はい、確認しました。今日は藤乃、お義父さんと一緒に外回りしてるのよ」
「そうなんですね」
「……花音ちゃん、ありがとうね。あの日、藤乃を連れていってくれて」
奥さんの言葉がすぐには飲み込めなくて、首をかしげていると、「展覧会」と聞いてようやく思い当たった。
「鈴美さん、ですか?」
「ええ、誰かが無理にでも連れていかないと、きっとあの子、一生行かなかったと思うわ」
「……でも、鈴美さんって、藤乃さんのこと……嫌いじゃないですよね?」
「やっぱりわかる? あれだけ分かりやすいと、隠しきれないわよねえ」
「え、そうだったの?」
葵さんが目を丸くする。
「あ、だからあんなに藤乃くんにべたべたしてたんだ? そっか……」
頷きながらつぶやいてるから、きっと葵さんにも思い当たるところがあるんだろう。
「鈴美ちゃんのこと、藤乃から何か聞いてる?」
「……はい、少しだけ。えっと、鈴美さんが有名になってから、お父さんからの当たりが強かったって」
「そんな生易しいもんじゃなかったのよ」
私は須藤造園の裏口の前で立ち尽くしていた。
この前納品に来たとき、実は熱を出してて……藤乃さんが、家まで運んでくれたらしい。
あとで母さんから聞いて、恥ずかしさで消えてしまいたくなった。
しかも部屋に入ったって……。藤乃さんにもらったドライフラワーとか目録、絶対見られてるよね……。
でも、それはそれ。
今日はちゃんと納品しなきゃ……。台車の花を、思わずもう一度チェックする。
今度こそ扉をノックしようと、右手を振り上げた。
「花音ちゃんだ。熱下がった?」
「わ……っ!」
「驚かせちゃった? ごめんね」
手を振り上げたまま振り返ると、ニコニコと笑顔で見上げる葵さんがいた。
「びっくりしました……」
「お花持ってきたんだよね」
葵さんは事もなげに扉を開ける。ちょっと待って、心の準備が……!
「こんにちはー、花音ちゃん、来てますよー」
「あら、こんにちは」
出迎えてくれたのは須藤さんの奥さんだった。ちょっと拍子抜け。
納品書をお渡しして、台車を運び込む。
「葵ちゃん、バケツ用意してね。花音ちゃん、これ、藤乃から」
「あ、ありがとうございます。先日は、本当にすみませんでした」
「気にしないで。元気になったのなら、良かったわ」
渡されたのはペットボトルのお茶と塩飴だった。……わざわざ用意しておいてくれたんだ。
奥さんが受領書にサインして、私に手渡してくれた。
藤乃さんの字に似てるけど、もう少しやわらかくて、女性らしい感じがする。
「はい、確認しました。今日は藤乃、お義父さんと一緒に外回りしてるのよ」
「そうなんですね」
「……花音ちゃん、ありがとうね。あの日、藤乃を連れていってくれて」
奥さんの言葉がすぐには飲み込めなくて、首をかしげていると、「展覧会」と聞いてようやく思い当たった。
「鈴美さん、ですか?」
「ええ、誰かが無理にでも連れていかないと、きっとあの子、一生行かなかったと思うわ」
「……でも、鈴美さんって、藤乃さんのこと……嫌いじゃないですよね?」
「やっぱりわかる? あれだけ分かりやすいと、隠しきれないわよねえ」
「え、そうだったの?」
葵さんが目を丸くする。
「あ、だからあんなに藤乃くんにべたべたしてたんだ? そっか……」
頷きながらつぶやいてるから、きっと葵さんにも思い当たるところがあるんだろう。
「鈴美ちゃんのこと、藤乃から何か聞いてる?」
「……はい、少しだけ。えっと、鈴美さんが有名になってから、お父さんからの当たりが強かったって」
「そんな生易しいもんじゃなかったのよ」