君に花を贈る
「これ、投票結果っていつ出るの?」
「たぶん、そろそろ出ますよ。終わる前にこの展示のバラも売り出すので」
「そうなんだ。そっちを買えばよかったかも」
「もし売れ残ったら、もらってやってください」

 相変わらず自信なさげな花音ちゃんだけど、たぶん残らない。見ている間に鉢もなくなってしまった。買っておいて、本当によかった。
 やがて市の職員がやってきて、投票用のボードを回収していく。
 花音ちゃんが目に見えてソワソワし出したので、写真を撮ろうとしたら怒られた。

「だって、かわいかったからさ」
「もう、かわいいって言えば何でも許されると思ってません?」
「本当にかわいいよ?」
「……そんなこと、ないです」
「ある。絶対にある」

 きっぱり言うと、花音ちゃんは唇を尖らせて黙ってしまった。
 葵みたいに「私、かわいいから! かわいいから!」って言えとは思わないけど、もうちょっと自信を持ってくれてもいいのに。
 ……自信のなさは、お互い様なのかもしれないけど。
 そうこうしている間に、職員がマイク片手に戻ってきた。

「ただいまより、バラの投票結果を発表いたしまーす」

 花音ちゃんの手が、ぎゅっと握られた。
 眉間にうっすらシワが寄っていたから、つないでないほうの指でそっとなぞったら、花音ちゃんが目を丸くして、やっと少しだけ笑ってくれた。

 結果だけ言えば、花音ちゃんのバラは優勝を逃した。
 でも、運営していた園芸サークルの会長が気に入ったとかで、市内の公園に植えたいからと大口の注文が入ったそうだ。
 ……しばらく店に入れられそうにないのは、嬉しいような、ちょっと寂しいような。
 花音ちゃんと会長の話が終わるのを待って、一緒に駅に向かう。

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