君に花を贈る
 カウンターを片付けながら、藤乃さんの目がふっと細くなった。
 そんな藤乃さんに、私が言えることなんてなくて、黙って箒を動かす。
 掃き終えて箒を返し、店先の花の片付けを手伝っていたら、お客さんが来たので私はカウンターの奥に引っ込んだ。
 若い女性が藤乃さんに笑顔で話しかけていて、藤乃さんも笑顔で受け答えをしながら少し前に私が納品したヒマワリを勧めている。
 藤乃さんは、ヒマワリにミスカンサスとローズマリーを添えて、ミニブーケを作って渡した。女性はキラキラした笑顔で受け取って……。
 ……仕事なんだから……。でも、そうか。もし藤乃さんと一緒になったら、こんな場面を何度も見ることになるんだ……いやいや、付き合ってもないのに、何考えてるの……!

「お待たせ」
「あ、いえ。大丈夫です……」

 ぐるぐる考えていたら、女性を見送った藤乃さんが、私のほうを振り返った。

「どこまで話したっけ? 葵が警察に相談に行ったって話はしたよね。そのとき、新人として聞き取りの補助に入ってたのが朝海だったんだって」
「なるほど……?」
「でも、さっき言ったとおり、メインで対応した人の反応があまり良くなくてさ。葵ががっかりしながら警察署を出たら、朝海が追いかけてきてくれたんだって」
「……」

 思わず身を乗り出したら、藤乃さんに笑われてしまった。
 つい……!

「それで、まともに相談に乗れなかったことを謝って、できる限りのことはしたいって言って、被害を受けた時間とか細かく聞かれたんだって」
「……それ、網江さんは大丈夫だったんですか? 新人が勝手なことして叱られたりとか」
「どうかなあ。あいつ、そういうの言わないから」

 藤乃さんはレジを操作しながら言う。長々とレシートが吐き出されて、そろそろ今日の営業もおしまいらしい。

「その何日か後、登校中にまた被害に遭いかけたとき、朝海が相手の腕を掴んで止めてくれたんだって」
「えっ……それ、お休みの日にってことですか?」
「そう。非番の日に早起きして、葵から聞いた時間と路線を狙って乗って、助けてくれたんだって」
「それは王子様ですね。惚れちゃいます。うわぁ……そっかぁ……すごい……」

 つい盛り上がってしまうけど、葵さんが受けた心の傷を思えば、はしゃいじゃいけない。だからできるだけ抑えるけど、でも、すごい。葵さんが三年かけるのも納得のかっこよさだ。
 藤乃さんが店頭の植木鉢を片付けていたので、私も手伝った。
 シャッターを下ろし、カウンターの外の電気を消す。

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