君に花を贈る
深く息を吐いてから店に戻ると、母親が誰かと喋っていた。
「ただいま……って、朝海!? なんで戻ってきたんだよ」
「先ほどのタチアオイのブーケ、もらいに来た。デスクに飾る」
「素敵ねえ。恋人と同じ名前の花を飾って……。葵ちゃんが王子様って言うのもうなずけるわ」
母親がニコニコしながらタチアオイとローズマリー、小ぶりなバラのブーケを包んでいる。俺が作ったのとは色が違ってて、そっちの方がセンスいい気がして、悔しい。
「藤乃も先ほどの女性を雨だからと傘を差して送っていったのだろう? 十分、大事にしているように見える」
「あら、雨じゃなくても毎回送ってるわよ。なんでくっつかないのかしらね? 甘いことは散々言うくせに、肝心なことは言わないところがお父さんそっくり」
「そうなのか」
「ええ。この子のお父さんも……」
「言わなくていいから! 朝海はもう帰れって! ……ったく、俺には俺のペースがあるんだよ」
放っておいたら延々と喋ってそうな母親を止めて、朝海を追い出す。
帰り際に見えた朝海の八重歯は、確かに牙みたいだったけど、たぶん、そんなに尖ってはいないんだと思う。
「ただいま……って、朝海!? なんで戻ってきたんだよ」
「先ほどのタチアオイのブーケ、もらいに来た。デスクに飾る」
「素敵ねえ。恋人と同じ名前の花を飾って……。葵ちゃんが王子様って言うのもうなずけるわ」
母親がニコニコしながらタチアオイとローズマリー、小ぶりなバラのブーケを包んでいる。俺が作ったのとは色が違ってて、そっちの方がセンスいい気がして、悔しい。
「藤乃も先ほどの女性を雨だからと傘を差して送っていったのだろう? 十分、大事にしているように見える」
「あら、雨じゃなくても毎回送ってるわよ。なんでくっつかないのかしらね? 甘いことは散々言うくせに、肝心なことは言わないところがお父さんそっくり」
「そうなのか」
「ええ。この子のお父さんも……」
「言わなくていいから! 朝海はもう帰れって! ……ったく、俺には俺のペースがあるんだよ」
放っておいたら延々と喋ってそうな母親を止めて、朝海を追い出す。
帰り際に見えた朝海の八重歯は、確かに牙みたいだったけど、たぶん、そんなに尖ってはいないんだと思う。