会いたくて逢いたくても彼はいない。~ Where Yesterday Sleeps(昨日が眠る場所)~
「まあ、勝手に落ちる分には」

構わない。
私に関係ないし落ちたら警察に連絡すれば良いだけ。
でもその後に事情聴取とかファンからの嫌がらせとか考えたら後々面倒が増えるのは必須要素。

「何か言った?」
「あぁ、べつに…」

ヤバッ、聞こえてた。
ま、それより

「寒ッ!」

ブルっと震える身体をさする。
2月の夜明けは寒くて吐く息も白い。

「とにかく風邪引きますしー。そこからこっちにゆっくり」

「来い」とは言えない。
手招きをして拡声器は使わず優しめに声掛ける。

「手、貸して」

初めて生でまじまじと聞いた声はハスキーで柔らかい。

「聞いてる?」

「はいはい、近づきますよー」

ズカズカと歩みより座り込んだ彼に出された手では無く腕を掴んだ。

「ゆっくりと立って下さい、あっ、あの、ちょっと!」

そんなに大きくない私の身体は引っ張られ体勢を崩し彼の胸元になだれ込む。

「刺激的なお誘いだけど…」
「それは!あなた…が」
「浅倉 彗(あさくら すい)、きみは?」
「鈴木 莉桜(すずき りお)…です」

「莉桜ちゃんね、ほら上見て」

軽々といとも簡単に私を抱き上げ膝の上に乗せた。

上…?
そんなの見たって…

「凄い…綺麗、です」
「だろ?月にも負けない」

寒さを忘れるほど綺麗な星空の下私は初めて彼と言葉を交わした。
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