宵の月、秘めたる契り―帝に愛された二人の女御―
「高頼がかつて妹のように思っていた娘……その綾子が、帝の御心に留まったのであれば、これ以上の縁はありますまい。」

冷徹な政治家と知られる右大臣の言葉とは思えぬ、穏やかな承諾だった。

だが、それこそが雅綱という男のしたたかさ――帝の「恋慕」を利用できる力と見ていたことを、誰よりも先に理解していたのだった。


数日が過ぎたある夕暮れ、帝が政務を終え、御簾の内で静かに一人酒を傾けていた頃――

帳の外から、控えめな咳払いとともに、馴染んだ声が響いた。

「帝。綾子を連れて参りました。」

右大臣・源 雅綱であった。いつになく柔らかな笑顔を湛えて、恭しく頭を下げる。

「そうなのか……」

帝・彰親は、思わず杯を置いた。胸の奥が高鳴っているのを、自分でも自覚していた。

御簾の外の空気が、微かに香を含んで変わった気がした。

「今夜、召しませ」

そう告げた雅綱は、ひとつ会釈して静かに下がる。

とうとう、綾子に会える。
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