影の妻、愛に咲く~明治の花嫁は、姉の代わりだったはずなのに~
その日の夜。

私は応接室で膝をつき、床に額をつけていた。

冷たい畳の感触が、罪悪感をさらに際立たせる。

「許して下さい……だますつもりなんて、本当は――!」

お母様の鋭い声が私の耳を打つ。

「だますつもり“なんて”? 呆れた!騙す気がなくて騙していたの⁉じゃあこれは何?政略結婚を成り立たせるために、梨子のふりをして入籍までして!恥を知りなさいっ!」

「申し訳ありません……!」

声が震え、喉が焼けつくように痛い。

その時だった。

「もういいでしょう。」

窓際の椅子に座っていた誠一郎さんが、静かに口を開いた。

私は恐る恐る顔を上げた。

誠一郎さんの背には月明かりが差していて、その横顔はとても静かだった。

「なんとなく……梨子ではないことは、最初から気づいていました。」

――え?

私は、瞬きすら忘れた。

「目の動き。話し方。何より、俺を見る目が違った。」

誠一郎さんはゆっくりとこちらを振り返る。
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