小夜啼鳥
小夜啼鳥

プロローグ


今、何が起きているのか。
時間の流れも止まったかのように、思考は停止。

唇には柔らかな感触。
目に入る景色はなく、視界の範囲を狭めるのは見慣れた顔。

それが間近にあって私の口にキスをしているわけで。
奴は閉じていた目を少しずつ開いていく。
細く睨んだような目で私を見つめ、口を解放するどころか強く押し当てるように角度を変えた。

私たち、付き合ってもいない。
恋人じゃないのにキスをするのって、どうなの?

口元が少し離れ、私の唇には熱のこもった奴の舌が触れた。

流されている事に気付き、私は右手の拳で奴の腹に一撃。
追撃に左手で、奴の頬に平手。

「ふふ。高いわよ、私に手を出すなんて。執事の立場で、許されると思わないでね!」

「痛いなぁ。くくっ……俺を執事と認めたの?」

痛がるか笑うか、どちらかにしてくれないかな。
気持ち悪い。

「言葉の綾よ。あなたも知っている通り、私の家系は落ちぶれ、執事を雇うような余裕などない。それを歴史とか由緒とか言われて……そもそも何故、キスしたの?」

何度か繰り返した主従関係の話。
それより気になるキスについて追求する方が、今は大事な気がする。


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