逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。
3.嫌がらせ再び
*****
あの4人での演劇鑑賞から1週間後。
今日もいつものようにアルトワ伯爵一家の皆様と私は共に夕食を食べていた。
「この魚は今朝捕れたものだそうよ」
机を挟んで向こう側に座る奥方様が本日のメインディッシュに視線を向ける。
すると、セオドアの左隣に座るレイラ様の表情が明るくなった。
「まあ、そうなの?それは楽しみだわ」
魚料理が一番好きだというレイラ様が嬉しそうに、だが、上品にフォークを使って、魚料理に手をつける。
それから美しい所作で魚料理を楽しんでいた。
かつてセオドアに
『姉さんは実は肉料理の方が好きだ。周りが勝手に姉さんが魚料理好きだと勘違いしていたから、心優しい姉さんは仕方なく、魚料理好きだということにしていた。姉さんが好きなのは肉料理』
と教えられたことに疑問を持つ。
もう1ヶ月以上、レイラ様のことを見ているが、どう見ても肉料理好きを隠して、魚料理好きなフリをしているようには見えない。
普通に魚料理好きに見える。
6年前、レイラ様のことを何も知らなかった私は、とにかく一番レイラ様のことを知っていると思われるセオドアのアドバイスをよく聞き、完璧なレイラの代わりになろうと決めていた。
そしてセオドアの助言もあり、完璧なレイラ様に近づけたのではないかと思っていたが、いざホンモノのレイラ様にお会いすると、私とレイラ様は似ても似つかないものだった。
この1ヶ月レイラ様を見続けて思ったのだが、食の好み以外にも、選ぶものや身につけるものの好みなど、全てが若干セオドアが言うものと違う気がするのだ。
セオドアのレイラ様像が少しだけ違ったのか、わざと間違いを教え続けたのかわからないが、今はもうそんなことどうでもよかった。
私が完璧なレイラ様の代わりに実はなれていなかったとしても、私がレイラ様の代わりを務めるのはあと数ヶ月ほどだ。もうどうでもいい話だろう。