逃げたいニセモノ令嬢と逃したくない義弟と婚約者。
4.最愛の隙間 sideセオドア
sideセオドア
日に日にアイツの存在が僕の中で大きくなっていく。
どこかでアイツを見つければ、何をしているのかと目で追ってしまい、ふとした瞬間にアイツのことが何故か気になってしまう。
気に入らない、消えて欲しい、許せない。
そんな感情が渦巻いて、アイツから目が離せなかった。
許し難い存在として、僕の中でどんどんアイツが大きくなっていた。
…そう思っていたのに。
許せない憎しみの対象であるはずのアイツが口から血を流して倒れた時、言いようのない不安に襲われた。
アイツが死ぬと思うと、どうしようもなく恐怖が湧いた。
だけど、そんな感情きっと気の迷いだ。
姉のフリをする姉のような存在が死ぬ姿を見たくなかっただけなのだろう。
そう思うようにした。
ーーーけれど、やっぱりダメだった。
使用人の真似事をさせられているアイツを見て、腹が立った。ヴァネッサに〝様〟と平気で付けて呼ぶその姿に
つい「お前は伯爵家の者なのに何故下の者に敬称を付ける?」と言いそうになった。
僕の中で気がつけば、あんなニセモノが伯爵家の一員になってしまっていた。
日に日にアイツの存在が大きくなっていると思っていたが、許し難い存在として大きくなっていたわけではなかったのだ。
そのことに気がついた時、最悪の気分になった。
あんなにもアイツの存在を許せなかったのに、僕自身が姉の隙間へと入ってきたアイツを許してしまったのか。
もうアイツの存在をこれ以上許すわけにはいかない。
早く絶望させてこの家から出て行かせるんだ。
だからアイツが勝手に使っている姉さんの部屋へ行き、一番大切そうに保管されていたあれを僕は握り潰した。