君の未来に、ぼくがいたこと。
【第5章:嘘と涙の脚本】

退院と決意

夏休み明け目前の朝。
陽翔は病院のベッドから、静かに立ち上がった。
胸の奥には、まだ痛みが残る。でも、顔には笑みを浮かべていた。

「……帰ろう。俺の“場所”に。」

母の支えで病院の玄関を出ると、蝉の鳴き声がまるで祝福のように響いていた。



家に帰ると、玄関には父が立っていた。
「……よく頑張ったな、陽翔。」

陽翔は小さく笑って頷く。
「うん。ありがとう。……まだ、やりたいことがあるから。」

その夜。机に向かった陽翔は、ぐしゃぐしゃになったままの脚本の束を見つめていた。

「……時間は、待ってくれない。だから俺は、止まっていられない。」

そう呟いて、陽翔は一気にペンを走らせた。
ふと、胸の奥に鈍い痛みが走る。だけど――

「大丈夫。こんなの、いつも通りだ。」

痛みに顔をしかめながらも、誰にも頼らず、誰にも言わず、陽翔はひとりで戦っていた。



翌日、学校に戻った陽翔に、結月と凛空が笑顔で駆け寄ってきた。

「陽翔!!」
「よかった、無事だったんだね……!」

「うん。ちょっと疲れてただけだよ。……心配かけてごめん。」

陽翔は笑顔を作った。
でも――
その笑顔に、結月は小さな違和感を覚えた。

(無理してる……? なんか、前より細くなった気がする……)

「ねえ、ほんとに大丈夫なの? 顔色……よくないよ?」

「大丈夫だよ。結月、俺のことなら平気。……それよりさ、映画の脚本、あとちょっとで完成なんだ。」

その目はどこまでもまっすぐで、どこか遠くを見ているようだった。

「……そっか。じゃあ、私も手伝う。」

結月はそれ以上何も言わなかった。ただ、隣に座り、そっとノートを覗き込んだ。



夜。陽翔は一人で脚本を打ち直しながら、深く息を吐いた。

「あと少し……絶対に、完成させる。」

強がりも、孤独も、全部抱えたまま――
でもその胸には確かに、“夢を生きようとする”火が灯っていた。
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