非日常のワンシーン
「………随分、勝手じゃない?遠距離になるから別れたいと言ったのはそっちなのに、引き止めて欲しいだなんて。そもそも、引き止めて欲しいなら最初からそういうべきだと思う。卒業まであと一ヶ月も無いのに、進路のことも知らなかったしね」
「だって、聞かなかっただろ?」
「まあ、こっちも自分のことで忙しかったからね」


それに、付き合っているとも思っていなかったから。それこそ、卒業間近に一つの話題として聞くくらいで充分だと認識していたし。

肩を竦めてみせると、男は怪訝そうな視線を向けてくる。


「その割には遊びに来てたよな?」
「誘われたときはね。まあともかく、私は提案を了承したんだから、続きを見ても良い?それとも、……」
「それとも?」
「状況としては続きを見るのを諦めて帰った方が良いのかと思って」


男はなんとも言えない表情で見てくる。


「それ、俺に聞く?」
「それくらいの厭味があった方が嬉しいのかと思って」


男は物凄く難しい顔になる。何か言いたそうで、けど言えないようなそんな表情。
しばらくその様をじっと見て、溜息を吐く。


「意地悪しすぎた。まあ、何処に行くのかしらないけどテストも含めてこれから先、頑張りなよ」


これ以上此処に居て、またわけの解らない問答が始まる前にと私はさっさと男の部屋を後にした。
あまりにもあっさりしている私の引き際を男は正にポカン、とはこういう状態だというお手本のように、床に寝転んだままで私を見送る形になったのだった。
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