あなたがいてくれるから
「てめぇは、本当に空気を読まねぇな……?」
「出てる出てる。杜希ちゃん、出てるよ。裏」
「あ゛?」
「ひっ、俺が悪かったですっ!」
─関係性が、力関係が、明らかである。
いつもの優等生の顔を脱ぎ捨てた彼は、怯える誉に近付き、何かを囁いて。
「ごめんね。いつもなの」
マイペースに、亜希は呟く。
「いつも」
「そう。いつも」
「そうなんだ……」
今更、彼らのことで驚くことは、基本的にない。
意外だなと思えど、この姿を見たら、「だろうな」くらいの感想しか出てこない。
「嘘や考え無しのことばっかり言わないでって言ってるよね?大体、亜希は正確には従兄弟じゃないだろ」
「え、いやいや、従兄弟で良くない?」
「馬鹿言うな。彼を混乱させてどうする。ただえさえ、同じ苗字で学校に通ってんだぞ?」
「…………そういや、そうだったな?」
誉の発言に、また、杜希の拳骨が落ちる。
なんの躊躇いもないそれは中々な音を。
「いっっっったぁ…………ちょっ、馬鹿になるじゃん!?」
「もう馬鹿だろ!この馬鹿!!」
ぎゃあぎゃあと、また?喧嘩を始めたふたり。
騒がしいなと思って眺めていると、亜希が。
「─あのね、凛空、誉の婚約者の祇綺(シキ)がね、誉とは従兄弟同士でね」
「……」
なんか、丁寧に説明が始まった。
とりあえず、大人しく聞いておくことにする。
「祇綺のお父さんが、誉のお母さんと兄妹で、祇綺のお母さんが、私のお母さんと異母姉妹なの。それでね、昔、祇綺のお父さんは、杜希のお母さんを助けたことがあって、その関係で、杜希は家族の集まりに参加してて」
「なるほど?」
「だから、誉は私を従兄弟っていうの。でも、私は祇綺と従兄弟同士なだけで、その婚約者の誉とは無関係なんだけど……」
「一応、大きく見れば、親戚ってことか」
「そういうこと。だから、勝手知ったる仲ではあるの。そのうえでさ、もっとちゃんと、私達を見てよ。きっと、あることに気づくよ」
「はあ……?」
ニコッ、と、亜希は笑った。
初めて見た笑顔。普段は動かないだろう表情筋。
この笑顔を向けられれば、多分、件の男子達は沸き立つのだろうなと思いながら、凛空は言い合いする誉達を眺めた。