推しに告白(嘘)されまして。
「ゆ、悠里くん。あ、あーん」
ぎこちなくそう言って、緊張で震えないように右手を左手で抑えつつも、慎重に、ゆっくりと、スプーンを悠里くんの口元へと運ぶ。
すると、悠里くんは嬉しそうに瞳を細め、その形のよい口を小さく開いた。
そしてそのままパクッと私の手からカレーを食べ、口元を緩めると、穏やかな表情で咀嚼を始めた。
なんと眩しくて尊い存在なのだろうか。
まさか再び推しに「あーん」体験ができるなんて。
ここは天国かな?
思わず緩んでしまう表情に、いけない!とすぐに表情に力を込める。
ここには私たち以外の生徒もいる。
公衆の面前で、鬼の風紀委員長がだらしない表情を浮かべるわけにはいかない。
「…ん、柚子のカレーも美味しいね。なんか俺のとこより、甘いかも。ほら、柚子も食べてみて?」
「へ?」
カレーの感想を述べ、流れるように悠里くんが自分のカレーをスプーンにすくって、私の口元へと運ぶ。
突然の推しからの「あーん」に私は供給過多で、一瞬意識が飛びかけた。
…が、そんな私を不思議そうに見る悠里くんの視線に、すぐに私の意識は現実へと引き戻された。
お、推しを待たせるわけには、いかない!
悠里くんの手からパクッと勢いよく食べて、もぐもぐと咀嚼する。
「美味しい?柚子?」
「ん、んん」
悠里くんに優しく問いかけられて、とりあえず頷いたが、実際はドキドキしすぎて、何の味もしない。
味覚が完全になくなっている。
死ぬ…死ぬ…。
バクバクと鳴り止まぬ心臓に、俯いて心臓を抑える。
そんな私の上で、千晴と悠里くんが静かに睨み合っていたことを私は知らなかった。