一年だけの契約妻で、ほぼ放置されていたのに
ダンボールにハロウィンの装飾と商品を詰め終えたパートの平中さんが、よいしょっと曲げていた腰を伸ばして叩く。
平中さんは主婦でパートタイム勤務。私が高校生の時ここにバイトで働き始めた時から一緒だ。私より経験値が高いから、店長として頼りない部分を何度も助けられている頼れる存在。
その平中さんの言葉で、そうだったと私自身忘れていたパズルのピースが嵌まる。
脳内に海外にいるあの人を思い浮かべたら、吉田さんがショーケースに上半身をつけて身を乗り出してきた。
「そうなんですか?旦那さん、クリスマス帰ってこない?」
「う、うん。多分ね」
「えー?店長から会いにいったりは?っていうか、新婚でしたよね?」
「そうだけど……私も仕事あるから。向こうはずっと海外にいるし、私は日本にいたほうが楽だし」
「そっかぁ。確かに日本で待ってるほうが楽かも。やっぱり旅行とは違いますもんね」
「でしょ?さぁ開店準備さっさと済ませようっ」
私は乾いた笑いを浮かべながら納品のチェックを始めた。
入籍したのが一年前のクリスマスイブ。
世間では新婚と呼べる期間だろうけど、実際は私の夫とされる人とイベント事を過ごしたこともなければデートもない。一日ですら共に暮らしたこともないのだから。


斎賀(さいが)つぐみ。結婚前の姓は花岡。職場では旧姓で通している。二十八歳、三月の早生まれ。容姿はいたって普通。普通というのは、人混みに紛れたらなかなか見つけられないという特徴のなさで、友達にも買い物に行って何度か見失われた過去がある。だから、地味さを加えれば平均以下なのかもしれない。
そんな私はこう見えて大企業の創業者の血筋で、家が決めた相手と結婚した。現代では稀少となったであろう政略結婚というやつだった。見合いというよりそういう話をされた時にはもう結婚は決まっていた。私は用意された婚姻届に記入し、相手と初顔合わせした場で渡した。
今の旦那様も大企業の御曹司で、結婚にさして興味があるわけでもなく、私の顔を一瞥してさっさと婚姻届に書き込み、「こちらで出しておくから。あなたはここで生活してくれ」とカードキーを渡された。これが都内の高級タワーマンションで、しかもペントハウスだったから何度も部屋が間違いではないか確認した。案内してくれたコンシェルジュがにこやかに「合ってます」と何度も丁寧に言うので、だだっ広いリビングを前にしばらく呆けてしまった。
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