春は、香りとともに。
「おはようございます。……少し冷えますね。足元に気をつけて」
「はい。お味噌汁、お作りしても?」
「お願いします。ご飯は、炊いてあります」
そんな何気ないやりとりも、少しずつ“ふたりの朝”として馴染んできていた。
味噌を溶く手元、湯気の立ちのぼる香り。
いつか父のいる朝にもこんな風に料理をした記憶があったが、
それよりもずっと静かで、穏やかで、優しい。
(暮らしって、香りと音の重なりなのかもしれない)
志野子は、味噌汁に刻み葱を落としながら、そんなことを思っていた。