春は、香りとともに。
ふたりの間に、少しの沈黙が流れた。
だがそれは、不快でも、気まずくもなかった。
沈黙すら、やさしい余白となって、そこに香のように漂っていた。
(そうだ。沈黙は香と似ている。
言葉を持たずとも、伝える力がある)
惟道は、静かに思った。
そして、彼女に向かって柔らかく言葉を置いた。
「帯の件、気に病まないでください。……あなたが選んだ色も、きっと似合いますよ」
志野子は、少しだけ笑って、目を合わせた。
「はい。……先生にそう言っていただけると、心強いです」