隠れスー女の恋の行方



でも、前より少しだけ、距離がある気がして。
澪は、そっと自分のスマホ画面をのぞき込んだ。
未読のままのトークルームに、午前中送った【お疲れさまです。今日の昼は食べましたか?】という文字が静かに浮かんでいる。


(……こういうの、重たいかな)


彼の仕事が大変なのも、きっとわかってる。
でも、神崎は何も言わない。理由も、近況も。

——だからこそ、わからない。

それが、澪の胸のなかに、小さなざらつきを残していた。



「神崎さ〜ん、ちょっとこの資料、チェックお願いしまーす!」

「おー、了解」


外回りから戻ってきた神崎は、さりげなくデスクにつき、受け取った資料を読み始めた。

その様子を、澪は斜め後ろの席からそっと見ていた。


(……普段と、変わらない)

けれど、ひとつだけ決定的に違うものがある。


——神崎は、もう、澪をあまり見ない。


職場での距離感を保つため、というのはわかっている。
でも、それでも、視線を合わせてくれないことが、こんなにも寂しいなんて。


「……っ」


そのとき、不意に背後から声がかかった。

「ねえ、赤木さんってさ、神崎さんと最近仲良くない?」

「っ……えっ、な、なにがですか?」

「なんかさ、噂あるよ。“神崎さんと赤木さんが両国で一緒に観てた”って」


(……見られてたんだ)



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